■微笑みの勝利
「おめぇ、そこでとまれ。うごくな」
大男は声を張り上げる。私は思わず、両手で耳を塞いだ。あまりに大声でうるさい。
ニーナの顔を見て「・・・ごめん」と私は呟くが、大声にかき消された。
ニーナは、私を見て、口元を抑える。その目には、わずかな動揺が見えた。
あぶない!
その動揺を見て、剣を構える男は、今にもニーナに斬りかかろうとしていた。
「おーい。」
咄嗟に私は、手をいっぱいに広げ、大きく、大きく振る。
目が合えば、目さえ合えば。私の武器、微笑み。昨日、料理長を籠絡した微笑み。これしかない。
そう考えた私は、必死に手を振った。
次の瞬間、魔性の笑みが剣の男を襲う。
スパイも、料理長も、大帝国の次期皇帝さえも陥落したのだ。ハイジャック犯ごとき通用しないわけがない。
ズボッ
最上段に振り上げきっていた剣は、男の両手から離れ、そのまま背後の床に突き刺さる。
男は、そのまま膝から崩れ落ちた。
「まずはひとり!」私は心の中で呟く。
「!?」それを訝しんだ大男は、私の顔を見るように持ち上げはじめる。
「待ってました。」ニコッ。待ち受けるのは、私の満面の笑み。
大男は、はっと目を見開く。
ゆっくりと、それはそれは丁寧に、丁重に私を持ち直す。
絶対に傷つけないという、信念さえ感じさせるような仕草でわかる。
静かに床に立たせると、そのまま引き下がり土下座を始めた。
剣の男、大男、それぞれに星印が光る。
「勝った。また勝ってしまった。」静かに二人を嗤った。
余韻に浸る私に、ニーナが駆け寄ってくる。
「申し訳ございません、私の不手際でございます。」
その言葉を聞きながら、私はニーナに抱きついたのだった。
***
人質は全員無傷。ハイジャック犯もせいぜい打ち身、あとはちょっとした裂傷程度。大した怪我はなかった。
そんな仲、船長の尋問が始まる。
船長のたっての希望で、尋問にニーナ(というか私)が同席することになった。
どうやら、私の活躍を、ニーナから聞き及んでいた。
・・・なんて伝えたのかな?ちょっと気になるんだけど。
総勢25名にも及ぶ犯人達の尋問。尋問の間に、改めて全員を籠絡せしめた。
微笑み効果により、ひとりひとり、本名、出身、動機、(なぜか)趣味に至るまで、赤裸々に語っていた。
最初は面白がって聞いていたが、後半は飽きていたのは内緒だ。後半の人たち、ごめんね。
乗組員は300名以上。内、25名が欠員となったことで、サービスの質が落ちるかと思いきや、質は向上した。
乗客に助けられたという事実が原動力だったらしい。後々、海鮮ダイニングの料理長が語ってくれた。
犯人たちの今後については考えさせて欲しいと、船長に伝えると、快く了承してくれた。
もうすぐ、帝国に到着する。




