■高熱の夜と王都の影
城は丘を登った先にあり、高めの塀に囲まれている。
塀の前には人工の小川。
門を繋ぐ橋は大きく、跳ね橋になっている。
門は閉じているが、勝手口があり、門番が数名で出入りを管理している。
身分証明と税金を払えば入れる。
勝手口の先にはメインストリートが広がっており、馬車が複数並んでも充分な幅。
道の脇には八百屋や武器屋、宿がひしめき合い、城に近づくにつれて高級になる。
城の近辺には貴族街があり、メインストリートから外れた場所は市民の住宅街だ。
自然発生した地域の組合が存在し、それぞれ自警団を組織している。
犯罪者は少なからずいるが、治安は比較的維持されている。
子供の小遣い稼ぎや日雇いの労働などは多く、慢性的な人手不足だ。
城は、防衛という本来の機能を軽視しているようだ。
本来ならば城への道には、障害物を一つ設けるべきであり、なんだったら壁で囲ってもいいはず。
だがそうしていないのは、戦はすでに過去のもので、今後も起きない、起こさないと考えているからだろう。
悪く言えば平和ボケとも言えるこの状況は、国王の単なる見栄と言えるだろう。
貴族街で安穏と過ごす貴族の多くは、領地の運営は全て代官任せにし、自ら手を下さない、あるいは手を下すことができない無能な者たちだ。
噂話や、より上位の貴族へのゴマスリに浪費し、国への貢献など微塵もない。
一方で、有能な貴族は領地運営に忙しく、その分領民からの人気は高い。
当然のことながら、その人格にも大きな差が生じている。
王都には、貴族の子弟を集めた学院が設けられていた。
教養、語学、地理、歴史など、様々な学問を通じ国家を担う人材の育成を目的としていた。
そこに通う一人の少女。
国家の要職にある公爵の一人娘である彼女は、その夜、高熱にうなされていた。
彼女は付き人であるニーナに手を握られながら、高熱と戦っていた。
額には汗が滲み、悪寒とダルさが彼女を襲っていた。
ニーナの励ましに、彼女は朦朧としながらも微かに頷いた。
万が一に備えて領地へ早馬を飛ばしたが、遥か遠く、到着には早くとも七日間を要する。




