炎を背に
片羽唯は、目を逸らさずにその男を見据える。自分の成れの果て、こうならなければ進めなくなった自分、或いは。こうなってしまえる自分の最果てを。じっと見据えながら、何度もしてきた自問自答を繰り返す。
みんなで話し合って、こうすると決めた。きっと一番難しい道だ。
プラトーを殲滅し、レリクトという元素を消し去り、日常を取り戻す……これは自分が、自分に課した約束だ。でも、今から宣言するこれは違う。
隣にいる銀色少女、リンは深呼吸を一度だけ行い、口を開く。
「唯。別の次元から来た貴方は、これからも戦い続ける。そうよね?」
リンの問いに、氷怨の唯は小さく頷く。気負った様子も、覚悟を決めた訳でもない。氷怨の唯にとって、それは当然のことなのだ。人が呼吸をするように。唯という存在は戦い続ける。
「私達をそれを止めたい。その為にここに来た」
リンの言葉に、氷怨の唯は首を横に振り、背後をちらと見る。
「その選択は、今でないといけないのか? あれは」
氷怨の唯がリンを睨む。目の奥に滲む焦燥が、睨むという表情を形作っている。
「あれは、お前達の手には負えない。俺が殺す」
《ディメンシャード》のことだろう。あのレリクスは強く、底が見えない。本来なら、全員で相手取り確実に破壊したい。唯もリンも、みんなだってそう考えている。
だからこそ、違う道を選んだ。
「いいえ。あれは私達の仲間が倒すし、貴方は私達が止める。それぐらいやってみせないと」
リンは悲しげに微笑む。
「他でもない貴方が……安心出来ないでしょう?」
それが、自分達の出した結論だった。氷怨の唯に任せる訳でもなく、その力を利用する訳でもない。その存在を否定する訳でも、無視する訳でもない。
あれもまた片羽唯だと認めた上で、屍だけが積上がっていく道程を終わらせる。
氷怨の唯は目を閉じ、小さく頷いてから目を開く。左腕のロボットアームがゆっくりと動き、腰のポーチを探る。
「今の俺に、そんなものは必要ない。話しても無駄なようだな」
リンは一歩前に出て、氷怨の唯を見据える。
「……もう戦わなくていいよ。あとは私達がやる」
リンの言葉に、氷怨の唯は首を小さく横に振る。頑なで、どこか縋るような目が。やはり、どこまでいっても自分のそれだと分かる。
「少し休んで、それから考えましょう。貴方は」
「俺には!」
遮るように氷怨の唯が怒鳴る。ノイズの混じった掠れた声は、拒絶そのものといった圧を内包している。
「そんなもの……必要ないと言った!」
左腕のロボットアームが動き、ポーチから引き抜かれる。そのアームはレリクト・シェルを摘んでおり、それを上方に投げた。
直上に舞ったシェルを見ながら、リンは小さく頷く。
「……そうでしょうね。じゃあ」
リンがこちらを振り向く。
「お願いできる? 唯」
リンの問いに、唯は右義手型アームドレイターを装着することで応える。
『Connected Arm』
唯は左義手を動かし、腰のポーチからレリクト・シェルを引き抜く。
唯はシェルをアームドレイターに装填する。それとほぼ同時に、氷怨の唯は顎を駆動させ落下してきたレリクト・シェルを噛み砕いた。
『construct』
その音を皮切りに、氷怨の唯の胸部から黒い炎が滲み出す。
リンは振り返り、黒炎を包まれていく氷怨の唯を見遣る。一度だけ目を閉じてから、リンはこちらに向き直り右の拳を出す。
唯もまた、その黒炎に目を細めながら。右義手型アームドレイターを動かし、リンの拳にこちらの拳を当てた。
リンは灰色の燐光となり、アームドレイターの中へと入っていく。
『ArchiRelics......《blank》』
同時に、黒炎が一際大きく燃え上がる。
『ArchiRelics......《blood》』
唯は右義手型アームドレイターの手の平を上に向けながら、内に眠る炎を呼び覚ます。右手から小さな火球が形成され、それが一瞬にして巨大な大火へと転じる。その火球を、唯は一撃で握り潰した。
『resonate......《Burned》』
唯は炎を纏った右義手を引き絞る。
氷怨の唯は、かろうじて動くようになった右義手を動かし、その手の平を胸にあてがう。そこからは、今も黒い炎が燃え上がっている。
唯と唯の視線が絡む。炎を宿す者と、炎に焼かれる者……二人はきっと、ようやく真っ直ぐに自分自身を見た。
「変身ッ!」
二人の唯は同時に叫ぶ。
一方は右ストレートを放ちながら、もう一方は血を振り撒きながら。
『Turned......BurningDawn......』
『Turned.......ErosionRust......』
赤と黒、二色の炎は膨張し、ぶつかり合い、互いのレリクスへと変わっていく。
『......《BurnDed》Relics』
燃え盛る右義手を右側面に振り抜きながら、唯とリンは《バーンデッド》レリクスとなった。右義手を中心に煌々と炎が踊る。
『......《blood》Relics』
黒炎は凍り付き、かと思えば黒い血となって融解していく。氷怨の唯は《ブラッド》レリクスとなり、右義手の拳を握り締める。血塗れた《ブランク》といった様相だが、その圧は《ブランク》の比ではない。
「……知らない炎だ。俺のじゃないな」
《バーンデッド》を見た《ブラッド》がそう呟く。
「これはリンの炎だ。この力で、俺はお前を無理矢理にでも止める」
唯は、《バーンデッド》は拳を構える。
「俺達のやり方でも戦えるんだって、お前に証明してみせる!」
そんな宣言を、氷怨の唯は溜息で受け流す。そして、《ブラッド》は姿勢を下げ、右手を上げて構える。
「必要ないんだよ。俺の戦いは……終わらないんだ!」
相手が自分自身なら、示し合わせることもない。
二騎のレリクスは、同時に相手へ飛びかかった。




