寂れた場所
エイトとゼロ、緑と光……《アーマードライブ》と《シャイニングディライト》が、《ディメンシャード》と死闘を繰り広げる少し前に、二人の唯もまた戦場へと向かっていた。
街を一望出来る小高い丘、簡易な手すりと幾つかのベンチで構成された自然公園……指定された集合場所にて、氷怨の唯はその時を待っていた。
右腕のアームドレイターは右肩に固定され、力なくぶら下がっている。左腕はロボットアームのような義手に置き換わっており、簡易的なアームが時折ぎちぎちと駆動する。
極めつけはその顎であり、顔から下半分が全て機械の顎となっている。遠目から見れば大きなマスク、或いは強制器具のような様相だろうが、近くで見ればそれが機械の顎であることがすぐ分かるだろう。
目撃者がいれば、悲鳴の一つや二つはすぐに稼げるだろうが。ここは随分と寂れている。手すりの表面は所々が剥げ、錆が顔を覗かせていた。ベンチに至っては幾つか損壊し、そこだけやけに発色のいい黄色のテープが巻かれている。長きに渡って放置されてきた落ち葉は層を作り、足でそれを退かすとレンガ模様の石畳が土に塗れていた。
この有り様では、平時であっても人は少ないだろう。だが警告が記されたテープによる封鎖と、ゴミの類が散乱していないことから、最低限の管理はされている。そんなどこにでもある、何て事はない日常の中で、氷怨の唯は無事であるベンチに腰掛けていた。
《ディメンシャード》を打倒する為、協力体制を取る。氷怨の唯にとって、この申し出はプラスでもマイナスでもない。だが少なくとも、この世界に生きる仲間達にとっては。プラスになって欲しいと願っている。
ふと違和感を覚えた。肌がぴりと張り詰め、脳の内側がじりと焼けるような感覚……氷怨の唯は立ち上がり、手すりに近づき眼下に広がる街を見据える。
「次元が乱れた。何だ?」
次元への干渉……それも複数箇所、肌感覚だけで氷怨の唯はそれを読み解いていく。
「あいつが先手を取ったか。《ディメンシャード》を中心に構築した次元の檻。厄介なものを」
小さく唸り、氷怨の唯の表情が曇る。その厄介さは既に知っていた。数多の次元跳躍と殲滅戦の中で、何度かやり合っているからだ。
勝てるし殺しきれるが、時間と手間が掛かる。あまり好ましくない状況だ。
「……既に戦っているのか?」
ここからでは見えないが。街の中で、レリクトと次元がぶつかり合っているのが、何となく分かる。
氷怨の唯は知る由もない。この瞬間、エイトとゼロ、緑と光は《ディメンシャード》との決戦を始めたのだ。
「なら、やることは一つ」
戦場へ向かう為、氷怨の唯は手すりを左腕のロボットアームで掴む。しかし、それを飛び越える前に足音と気配を感じ振り向いた。
その人影を見て、氷怨の唯は目を細める。肌で感じた違和感と、目の前の光景が、うまく結びついてくれないからだ。
「……どういうつもりだ、リン」
だからこそ、氷怨の唯は問いを投げ掛ける。かつて、そして恐らく今も。彼女には聞いてばかりだ。
銀色少女、リンは氷怨の唯の肩越しに街を眺める。その目が何を捉えたのかは分からない。だが、彼女には見えているのだろう。
リンは氷怨の唯に視線を戻すと一瞬だけ苦しげな表情を浮かべた。僅かな時間であっても、何度も見ているから分かる。後悔と自責、何度繰り返しても、消えはしない感情の発露だ。
「貴方には私に、いえ。私達に付き合って貰うわ」
もう一つの足音が響く。遅れてやってきたのは、自分と同じ顔をした、しかし違う道を行く男だ。
片羽唯とリンは並び立つ。氷怨の唯は街に背を向け、二人に向き直る。
そうせざるを得なかった。背を向けたままでは負ける。前後もなくそう感じ取ったが故に、氷怨の唯は二人に正対した。
そして、氷怨の唯は黙ったまま言葉を待つ。
この世界の自分と、その相棒が何を選んだのか。
その答えを知る為に。




