表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブランクアームズ -BloodRhizome-  作者: 秋久 麻衣
‐理想を描く為に‐
30/34

次元を断つ剣


 三騎の立ち位置が何度も入れ替わる。周囲には無数の破片、その残滓が散らばっていた。

「なるほど、嬉しい誤算だ。君達は想定よりも強い」

 白衣の男が淡々とした様子で言う。相も変わらず、事実だけを口にしている。

 そうこうしている内に、三騎の戦いにも終点が見えてきた。

 《シャイニングディライト》が光輪を伴った蹴りを放ち、《ディメンシャード》に膝を付かせる。その隙を逃さず《アーマードライブ》が飛来、左手に構えた大盾で《ディメンシャード》を叩き潰す。

 《アーマードライブ》はまだ止まらない。右手に持っていた騎槍を地面に突き立て、地面ごと一閃、大盾と《ディメンシャード》を両断した。

devastate(デバステイト),lance(ランス)

 爆炎が上がり、破片が宙を舞う。無数の、といっても大分数が減ってきた光輪が、慌ただしく破片を打ち砕いていく。

 最後の一欠片は、《アーマードライブ》が騎槍を投擲することで破壊した。

「さて、これで」

「十五、いや十六体目だ」

 白衣の男、その言葉の先をエイトが言う。十六体……あれから、《ディメンシャード》を完全撃破した数だ。

 《ディメンシャード》は、破片が一つでもあれば復活する。だからこそ、緑と連携し破片も全て撃破している。

 だが、それでも《ディメンシャード》は復活した。そして、復活する度に強くなる。

 《アーマードライブ》の左手に、長方形のプレートが集約する。先程《ディメンシャード》ごと両断した大盾が、再び形成され左手に握られた。

 そして、時を同じくして。破片もまた舞い降り、《ディメンシャード》を形作る。

 《アーマードライブ》も《シャイニングディライト》も、全身で息をしながら得物を構える。

「《ディメンシャード》はとっくに君達のスペックを上回っている。五体も倒してくれれば良い方だと、勝手に思い込んでいた。謝罪させて欲しい」

 白衣の男はそう言うと、それはそれとして、といった具合で言葉を続ける。

「システム的にはまだ余力がある。あと三十ほど撃破してくれないか?」

 絶望的な宣告……いや、これもまた。彼にとっては事実の列挙でしかない。

 エイトも緑も、ゼロも光も。何も言い返せない。言い返す余裕は既になく、呼吸の一つでも乱せば《ディメンシャード》に対応出来なくなる。

 《ディメンシャード》の姿がかき消える。否、ただ移動しただけだ。目で追えない程に速いだけの、ただの移動だ。

 その見えない移動と攻撃動作をエイトは、《アーマードライブ》は経験則で見切る。左手の大盾をかざし、振るわれた光剣を受け止めた。

 その隙を突き、《シャイニングディライト》が接近、光剣を振り抜く。レリクトを減退させるレイディアントソードは、今尚特効武器として《ディメンシャード》に効く。だが、その姿は打ち合いもせずにかき消える。隙はあった。だがその動作はあまりにも速く、《シャイニングディライト》の剣戟はあまりに遅かった。

 《アーマードライブ》は騎槍を形成し右手で構える。その穂先に光剣を宿し、《ディメンシャード》が飛び退いた先を斬り払う。

 大盾で受けた攻撃を解析し、自分の物として振るう。《ディメンシャード》の高火力を、そのまま返す一撃は、三体目までにはよく効いていた。

 今となっては、これは必殺ではなく攻防の一つでしかない。こちらの光剣を難なく自身の光剣で防ぎ、《ディメンシャード》は消える。

「くッ! やらせない!」

 緑が、《シャイニングディライト》がシェイプシールドを展開し、光輪として放つ。《ディメンシャード》の移動を阻害、或いはその方向を限定させる為の布石だ。しかし、無数のそれを前にして、《ディメンシャード》は前進を選んだ。即ち、光輪の群れに飛び込んだのだ。

「え?」

 一番行って欲しくない方向……緑の意識が一瞬困惑に支配される。

 《ディメンシャード》は物理法則を無視した動きを見せたのだ。くねくねと空中を泳ぎながら、光輪と光輪の間をすり抜けていく。

 そして、一瞬の困惑の最中にあった《シャイニングディライト》を、鋭い蹴りで地面に引き倒した。

『......《Breakdlive(ブレイクドライブ)Relics(レリクス)

 そこに遅れて飛び込んだのは、《アーマードライブ》ではなく《ブレイクドライブ》だ。遅れるつもりはなかった。空間を跳躍し、間に合う筈だったのだ。それ以上に《ディメンシャード》が速く、結果的に遅れてしまった。

 《ブレイクドライブ》は砕棒、ブースターロッドを振り抜くも、そこには残像が残るのみ。ただの移動で、《ディメンシャード》は残像を残し消えていた。

 これまた経験則からエイトは、《ブレイクドライブ》は空間を跳躍しその場を離れる。上空に転移し、追撃を避けようと試みた。

「……な」

 目の前には、既に《ディメンシャード》が存在していた。いや、一拍遅れてやってきた。つまり、こちらの動きを先読みした訳ではない。ただ、こちらの空間転移を見てから追いかけてきただけなのだ。

 苦し紛れに振るった蹴りは難なく止められ、その勢いを引き継いだ踵落としが《ブレイクドライブ》を地面へと叩き落とす。そこは偶然か必然か、緑の《シャイニングディライト》が倒れている場所だった。

 《シャイニングディライト》は、ようやく立ち上がろうとしている。否、ようやくというにはあまりに酷だろう。この攻防は、時間にして数秒にも満たないものだった。

 だが、その数秒で。二騎は地面に倒れることになった。

 そして、起死回生の一手が欠けたまま。戦いは続いていく。

 空中にいる《ディメンシャード》が動き出す。一回転すると身体が一度破片に戻り、再形成を始める。その体躯は大きく変化し、銀色の外装は巨大な銀の剣へと変貌した。全長三メートル超はあるだろう、巨大な剣だ。

 その巨大な銀剣は、見えない手で掴まれているようにその剣身を横たわらせる。

 まるで、見えない剣士が長剣を構えているように。そして、その感想は概ね間違いではないだろう。

 見えない剣士が剣を振るう。巨大な銀剣と化した《ディメンシャード》が、地面を削りながら迫る。

「まだ、私達は!」

「ああ、そうだ!」

 緑の声にエイトも応える。負けてはいない、諦めてはいない。《シャイニングディライト》が膝立ちのままシェイプシールドを束ね、盾として展開する。

 そして、《ブレイクドライブ》は立ち上がると同時に《アーマードライブ》となり、左手に大盾を形成、地面に突き立てるようにして構える。

 そして、巨大な銀剣と化した《ディメンシャード》が二つの盾に激突した。一つはシェイプシールドの群体、もう一つは大盾だ。

「ぐ、おおおおッ!」

 エイトは叫び、その一撃に耐える。

「……終わりか。保った方ではある」

 しかし、白衣の男が事実を述べる。

 巨大な銀剣、《ディメンシャード》はその身を、剣身を振り払う。拮抗は崩れ、そこに留まっていた二騎のレリクスを呆気なく両断した。

dimension(ディメンション),slash(スラッシュ)

 七色に発光する斬撃が炸裂し、緑の悲鳴が爆圧に呑み込まれる。

 爆煙が広がり、二騎の姿が見えなくなる。巨大な銀剣と化した《ディメンシャード》は、剣戟の勢いのまま再び上空へ飛来、その身を破片へと変え、人型の銀装……いつもの《ディメンシャード》へと戻った。

 《ディメンシャード》は眼下の爆煙を見据えている。そののっぺりとした相貌から、感情を読み取ることは出来ない。

 だが、この瞬間だけは別だ。爆煙を裂く光の帯……ビームの照射にも見える一撃が、《ディメンシャード》を照らす。その相貌に、焦るような挙動が見て取れた。

「大した一撃だ」

 エイトの声が響き、爆煙が晴れる。ヒビだらけの崩れかけた《アーマードライブ》が、左手を上空に、《ディメンシャード》へと向けている。その身体は至る所にシェイプシールドが取り付いており、それが強引にレリクスを維持していた。

「維持します、絶対に!」

「一撃なら、なんとか!」

 緑と光が、《シャイニングディライト》が倒れたままシェイプシールドを操り、支援を続ける。

 《アーマードライブ》の左手、その周りには長方形のプレートが浮かび、さながら銃のライフリングのように回転している。

 そして銃のよう、という感覚は間違いではない。その左手から照射された光の帯は《ディメンシャード》を空間に固定している。

「そのまま返すよ」

 ゼロが呟く。それを契機に、光の帯が熱量を上げる。それは極光へと至り、七色に発光していく。

 捕らえられた《ディメンシャード》は身構えることすら出来ない。

ABsolute(アブソリュート)

 レリクトが炸裂する。七色の極光、《ディメンシャード》が用いた攻撃の再現によって、《ディメンシャード》は霧散するように撃破された。

 破片が生じる間もない、完全な撃破だ。

 《アーマードライブ》の外装が崩れ、霧散し、エイトとゼロが生身のまま倒れ込む。《シャイニングディライト》もまた崩れ落ち、緑と光が蹲る。

「……驚いた。レリクトの可能性は、確かに先が見えない。ドクター・フェイスが楽しんでいたのは、これだな」

 白衣の男がそんなことを言う。その声色には、珍しく感情が滲んでいる。

 全身の痛みを無視しながら、エイトは身体を起こす。起死回生の一撃を叩き込んだ。だが、頭の中では常に最悪を想定している。

 その光景を確かめる為に、エイトは立ち上がろうとした。しかし果たせず、苦悶の表情のまま膝を付いた。

 そして、無情にも最悪は結実する。

 次元の裂け目が開き、破片が舞い落ちる。増殖したそれは人の形へと変わり、地面へと着地した。

 無傷の、いや。新たな《ディメンシャード》レリクスがそこにいた。

「十七体目だ。どうだろうか?」

 白衣の男は問う。皮肉も軽口も強がりも、エイトの口から発せられることはない。ただ、苦痛に唸るのみ。

「限界は……ないのか?」

 小さな声で、エイトが疑問を口にする。無限などあり得ない、だがレリクトなら。

 白衣の男は、隠すつもりはないのだろう。あっさりと口を開く。

「理論上は、ない。あくまで理論上だが。それもあってシステムの触れ幅、限界値を確かめたかった。君は平行世界を信じるか?」

 唐突な質問に、エイトは目を細める。

「SFの設定だと思っていたが……色々あって、今は信じている」

 エイトが思い浮かべたのは、他でもない。氷怨の唯だ。彼の存在を説明するには、平行世界といった単語が一番しっくりくる。

「平行世界、次元の向こう。ファンタジーの領域だが、それが私のライフワークだ。当然、うまくいった試しはない。《ディメンシャード》は、ある日唐突に完成した。おそらく、次元の干渉を受けて」

 白衣の男は残念そうに語る。自分の手で完成させたかったと、その目には書いてある。

「再現性はない。それでも、戦力としてはかなりのものだ。だから、強力にバックアップすることにした。それが次元干渉網と、その連立システム群だ」

 知らない単語だとエイトは考えるも、思い当たる筈もないと口元を緩める。天才の発想に追いつくことは難しい。

「それで……その次元なんとやらの効果は?」

 エイトの問いに、白衣の男は《ディメンシャード》を指し示す。

「《ディメンシャード》が干渉出来る次元孔を、可能な限り再現したシステムを、地球上の各施設に設置、起動した。地球を覆う次元の網、それが次元干渉網だ。これらは予備エネルギーとして用いられる他、疑似的に《ディメンシャード》であるとも仮定され……いや、難しい話はよそう。分かりやすく言い換える」

 白衣の男は咳払いをする。自分自身を落ち着かせているのだろう。平静という名の鉄仮面を被り直してから、男は口を開く。

「《ディメンシャード》は地球上のどこにでも存在している。無尽蔵のリソースを用い、次元を超え、どこにいてもその武力を行使出来る。君達のこれからの戦いは、その様相を変えなければいけない。つまり」

 白衣の男はじっとエイトを見据える。エイトは目を見開き、その言葉を、事実を脳裏に刻む。

「《ディメンシャード》と戦い続けながら、幾つあるかも分からない次元干渉網を破壊しなければならない。その全てを破壊し、《ディメンシャード》を撃破し破片を全て破壊する。それが」

 エイトは唸る。そして、その事実の先を言う。

「俺達の……これからの戦いか」

「ああ。或いは、挑戦と未来だ」

 《ディメンシャード》は動かない。とどめを刺すつもりはないのだろう。プラトーは強力な防衛手段を手に入れた。

 自分達がこれからもプラトーと戦うのならば。必ず《ディメンシャード》が立ち塞がる。その猛攻をくぐり抜け、施設を強襲し、次元干渉網とやらを破壊する。

 それも一つや二つではない。その数だって、これから増えていくかも知れない。

 覚悟をして選んだ道だ。だがそれでも。

 エイトは唇を噛みしめ、うっすらと浮かんできた敗北の二文字と向き合う。

 仲間達は地に伏し、誰も何も言わない。いや。

「……はあ? 黙って聞いてれば」

 倒れたまま少女は、ゼロは鼻で嗤う。

「そんな未来はいらないよ」

 そう言いながら、ゼロは顔を上げる。苦痛に苛まれた表情をしていても、その目に宿った意思は揺るがない。

 ゼロはエイトを見る。そんな未来はいらない。あんたもそうでしょう?

 少女の目は、確かにそう言っているように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ