切り札と鬼札
白の重装が、唸りながら騎槍を構える。翡翠の戦士が、苦し紛れに大剣を投擲し距離を稼ぐ。
かち合って数秒、数回の剣戟を経て、二騎は早くも防戦を余儀なくされていた。
白の重装……エイトは、《アーマードロウ》レリクスは踏み込むと同時に騎槍を突き出す。狙うは銀装の《ディメンシャード》レリクスだ。
鋭い刺突を、《ディメンシャード》は身を捩って躱す。
「はあッ!」
同時に、横合いから飛び込んだ緑の《シールディア》レリクスが跳び蹴りを放つ。足先には三基のサテライトシールドが集っており、それらは回転し一つの光輪と化していた。
槍を避けた隙を狙った一撃は、しかし《ディメンシャード》には届かない。《ディメンシャード》は身を捩った体勢のまま、腕から光剣を形成し斬り払う。
《シールディア》の足先と《ディメンシャード》の腕先……光輪と光剣がぶつかり合った。拮抗は一瞬、《シールディア》はすぐに飛び退く。
「ふん!」
エイトが息を吐き出すのと同時に、《アーマードロウ》が掌底を放つ。騎槍をさっさと手放し、地面がひび割れる程の踏み込みを見せてからの一撃だ。
《アーマードロウ》の左手が、《ディメンシャード》の胴を撃ち抜く。《ディメンシャード》は吹き飛ぶも、空中で器用に体勢を整え、難なく着地した。
「なるほど。《バーンデッド》相当という看板に偽りはないな」
エイトは、《アーマードロウ》はそう呟く。その場で仁王立ちをしたまま、じっと《ディメンシャード》の動向を窺う。
「高出力に高耐久、反応速度も尋常じゃありません。予想通りですけど」
《アーマードロウ》の隣に着地しながら緑は、《シールディア》はそう返す。
二騎で連携し、何度か切り結んだ。連携しているからこそこちらの攻撃は当たるし、向こうの攻撃を防ぐことも出来る。だが、そのどれもが的中打ではない。
《アーマードロウ》はちらと自身の左手を見る。高エネルギーに曝され、少し焼けている。掌底を叩き込んだ時に貰ったダメージだ。
今や、《ディメンシャード》は触れるだけでもこちらを蝕む。
《アーマードロウ》は左手を握り締め、切り札を作り上げる。白金の弾丸、プラチナ・バレットを形成すると、それを親指で上方に弾く。
「全力で対処する他ないな」
「はあ、やっぱりこうなる」
エイトはそう宣言し、ゼロは悪態を吐く。《アーマードロウ》は右手でプラチナ・バレットを掴むと、それを左義手型アームドレイターに装填した。
《アーマードロウ》が左腕を振ると。長方形のプレートが複数形成され、回転しながら《アーマードロウ》を囲っていく。
『ArchiRelics......《ABdrive》』
《アーマードロウ》は、その内の一つに触れる。その長方形は翻り、左義手型アームドレイターの中へと溶け込んでいく。
『liveA』
「私達も」
「おう!」
緑と光の《シールディア》もまた、切り札を手にしていた。《シールディア》は形成した菱形のクリスタル、セカンドリアクターを右膝に装着する。
『Sealing......Realize......』
装着されたセカンドリアクター、その核たるクリスタルが黄色に発光する。高まっていくその光量に比例していくように、《シールディア》は右膝を上げる。
《アーマードロウ》は左義手を自身の眼前で握り込み、深く息を吸い込んだ。
「……変身!」
「フェイズ、スタート!」
エイトは左義手型アームドレイターを左背面に振り抜きながら、緑は右義足型レッグドネイターで地面を踏み締めながら始動キーを叫ぶ。
『Turned......ABsolute......』
『PhaseStart.....SaveingRay』
《アーマードロウ》を囲う長方形は激しく回転し、白の外装を白金の外装に染め上げていく。重装は更に堅牢な重装へ、背中や足にスラスターが増設され、長方形のプレートが背中に集約していく。
《シールディア》の外装も変わっていく。右膝から光線が乱反射し、右半身に刻印していくように収束していく。光線で縁取られた外装は瞬くまにその姿を顕現させ、右半身に黒と黄色の外装が組み上がっていく。
『......《Armoredlive》Relics』
『......《Sing deR》Relics』
左義手を眼前で握り直しながら、《アーマードロウ》は《アーマードライブ》レリクスとなった。その背中にはマントが形成され、迸るエネルギーの余波を受けてなびく。
《シールディア》は反動のままに飛び上がり、着地と同時に《シャイニングディライト》レリクスとなった。右膝のクリスタルが一際強く発光し、その意思を示す。
「時間を掛けるつもりはない」
「そう、さっさと終わらせて」
《アーマードライブ》は悠々と歩き出す。
「撃破し、破片を全て砕く。それだけです」
「一つも逃がさない!」
《シャイニングディライト》は身体を縮めるようにして身構える。
対して《ディメンシャード》は両腕の光剣を形成し、宙に浮いた。白衣の男は少し離れた位置で、表情を崩さぬまま傍観している。
「《バーンデッド》、いや。唯とそれ以外の差が何か、俺が教えてやろう」
エイトが、《アーマードライブ》がそう宣言する。それに応えるつもりだったのか、ただの偶然か。《ディメンシャード》は両腕の光剣を構え、空中を滑るように飛行、《アーマードライブ》へと接近する。
その動きは物理的な法則を無視しており、見えない手で掴まれた人形が、ぐいと引き寄せられたように見えた。
対して、《アーマードライブ》はゆったりと左腕を引き、そして踏み込んだ。
「ふん!」
二騎が交わる。《ディメンシャード》は光剣を振り抜き、《アーマードライブ》は左手の掌底を放つ。
小細工なしのぶつかり合い、一方は吹き飛び、一方は両の足を地に付けている。
「ふむ」
多少焦げた左手を一度振りながら、地に足を付けている方……《アーマードライブ》は吹き飛んだ方……《ディメンシャード》を見遣る。
光剣を物ともせずに、掌底が《ディメンシャード》の胴を撃ち抜いたのだ。結果、《ディメンシャード》は後方に吹き飛び、壁に激突した。
受け身を取ることすら出来なかった《ディメンシャード》だったが、苦難はまだ終わっていない。
「いきますよ」
緑の《シャイニングディライト》が短く宣告する。未だ壁にめり込んでいる《ディメンシャード》へと、《シャイニングディライト》は駆け寄る。その背面から無数の光輪、シェイプシールドが飛来し、それら全てが《ディメンシャード》のいる壁面へと吸い込まれていく。
光輪の群れが、壁面から剥がれ落ちそうになった《ディメンシャード》へ直撃し、その体躯を再び壁面へと押し付けられていく。
難なくそこへ辿り着いた《シャイニングディライト》は、《ディメンシャード》へと跳躍すると右手を突き出す。そこには光剣、レイディアントソードが形成されており、その剣身は造作もなく《ディメンシャード》の胴に突き刺さった。
「レリクトを分解します!」
「調整完了、任せて!」
《シャイニングディライト》の右半身、黒色の外装がスライドし、幾つかのスリットを形成する。そこから、七色に発光するレリクトが噴出し始めた。
《シャイニングディライト》の光剣、レイディアントソードはレリクトを減退させる。その特性を活かし、《ディメンシャード》を構成するレリクトを直接排出しているのだ。
全身がレリクトで形成されている《ディメンシャード》にとって、いや。レリクスにとって特効とも呼べる攻撃を前に、《ディメンシャード》はもがくことしか出来ない。
しかし、《ディメンシャード》は抵抗を止めない。全身を縮め、蹲るように丸まると、損傷などお構いなしに全身を回転させた。
「く……!」
さすがの《シャイニングディライト》も、その勢いは抑えきれずに飛び退く。
ようやっと自由になった《ディメンシャード》は、壁面から地面へと落下する。やはり受け身は取らず、べしゃりと地面に崩れ落ちる。
「ふうん。死に体って感じ」
「半分以上は分解したから」
ゼロが期待外れといった様子で呟き、それに光が理由が添える。全身を構成するレリクトを、半分以上排出されたということだろう。
「では仕舞いだ。唯ならここから粘るだろうが」
「人形では無理でしょうね」
エイトと緑はそう言うと、互いの得物を形成し身構える。《アーマードライブ》は騎槍を、《シャイニングディライト》は大剣を。
二騎は飛び出す。《ディメンシャード》もまた立ち上がり、両腕に光剣を形成し一歩踏み出す。
いや、一歩踏み出すことしか出来なかった。その時にはもう、二騎は目の前に迫っていたからだ。
「ふん!」
「はあ!」
《アーマードライブ》の騎槍が打ち上げ、《シャイニングディライト》の大剣が打ち下ろす。同時に振るわれた斬撃は、さながら猛獣の顎よろしく《ディメンシャード》を喰らう。
ぎちぎちと不快な音を響かせて、《ディメンシャード》は炸裂した。
無数の破片が宙を舞うが、それらに安息の時間は訪れない。
なぜなら、空には既に先客がいるからだ。
「一欠片に一つ」
「逃がさないって言った!」
緑と光が、《シャイニングディライト》はそう言いながら左手を振り下ろす。
それが合図となり、空から飛来した無数のシェイプシールドが光輪となり降り注ぐ。
光輪の雨は、容赦なく《ディメンシャード》の破片を打ち砕いた。欠片一つに一つの光輪……外れる道理もなく、欠片はその悉くが両断、霧散していく。
《アーマードライブ》は騎槍の石突を地面に突き立てながら、《シャイニングディライト》は大剣を肩に担ぎながら、一連の戦いを傍観していた白衣の男を見据える。
「欠片は全て破壊した」
「《ディメンシャード》はこれでおしまい、ですよね?」
白衣の男は、プラトーのドクターは頷く。
「欠片を全て失った《ディメンシャード》は再形成出来ない。それが提示されたルール」
しかし、男は笑みを浮かべる。
「そして、私の挑戦は。ここからが面白いところなんだ」
そう男が告げるのと同時に、信じられないことが起こった。何もない空間から、破片が舞い落ちる。それらはあっという間に増殖し、銀色の外装を形作っていく。
エイトと緑は息を呑む。
破片は瞬く間に《ディメンシャード》へと成った。全身に刻まれたエネルギーラインが、煌々と七色に輝く。
「次元干渉網と、その連立システム。起動を確認した。ひとまずは成功、だがまだ足りない」
男はちらと二騎を、《アーマードライブ》と《シャイニングディライト》を見遣る。
「君達には悪いが、もう何度か撃破して欲しい。システムの触れ幅が見たい」
そんな男の物言いに言い返す前に、飛び込んできた《ディメンシャード》が光剣を振り回す。
《シャイニングディライト》は飛び退き、《アーマードライブ》は咄嗟に騎槍で受ける。そのまま弾き飛ばそうとするが、《ディメンシャード》は一歩も引かず鍔迫り合いを継続した。
「当然、性能も上がるか!」
エイトが、《アーマードライブ》が騎槍を巧みに操り、《ディメンシャード》の体勢を崩す。その胴へと掌底を放つも、《ディメンシャード》は後方に飛び退いてその勢いを殺す。
先程とは、まるで別物だ。
「ああ。撃破される度にその情報を解析する。基本的な機能はそのまま引き継いでいる。だからこそ」
白衣の男は短く溜息を吐く。
「片羽唯と、氷のレリクスに来て欲しかった。これでは勝ってしまうと言ったのは、そういう意味なんだ」
油断でも嘲笑でもなく、ただ事実だけを白衣の男は述べている。
「……舐められたものだな」
エイトはそう強がりながらも、頭の中で最悪の想像をする。
破片を全て砕いても復活した。次撃破しても同じだったとしたら。そこに限界はあるのだろうか?
いや、そもそも。あと何度撃破出来るだろうか。性能向上にも、限界がないとしたら。
「エイトさん」
緑が、《シャイニングディライト》が名前を呼ぶ。その声色だけで、何を考えているのか分かる。緑もまた、同じように考えたのだ。そしてきっと。同じ結論に達した。
「やるぞ。俺達は、それでもこの道を選んだ」
「……はい!」
《アーマードライブ》と《シャイニングディライト》が飛び出す。
対して《ディメンシャード》は、悠々とそれを迎え撃った。




