完成品
破片が舞い踊る中、男は街の大通りを歩く。人通りは少ない。アロガントの襲撃を受け、まだ数日と経っていないからだ。
瓦礫を片づけようとしていた男達は無言のまま後ずさりをし、散らばったガラスを隅に掃いていた女性は悲鳴を上げる。
白衣姿の男と舞い踊る破片……非日常を象徴するそれらを見て、彼等は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「賢明だ」
白衣姿の男が呟く。平坦な声は、ただ事実のみを音にしている。
アロガントの襲撃という非日常を経て、彼等の意識、或いは本能が鋭敏になっているのだ。だからこそ似たような非日常を前にして、迷わず逃げることを選ぶ。
もっとも、男からすれば民間人の有無はさほど重要ではない。
「急場凌ぎとはいえ、次元干渉網は完成した」
男は上空を、舞い踊る破片の群れを見る。
「本来、《ディメンシャード》と次元干渉網は二つで一つ。これでようやく完成品となった」
一人語る男の表情は暗い。完成したのではなく、完成させられた。そう言った方が正しいからだ。空洞だった《ディメンシャード》に、次元を超えて何かが干渉し、破片は動き出した。それを元に次元干渉網を調整し、完成させたに過ぎない。
男からすれば、答えだけを渡されたようなものだった。次元を超えた何か、それに類するものを、自分自身の手で作り出すか解き明かす。それが出来ていない以上、これはどこまでいっても空虚な完成品でしかない。
「……使えるものは使う。プラトーの防衛戦力として、有効活用するしかない」
自身の感情に折り合いを付けながら、男は立ち止まる。
とにかく、戦力としての《ディメンシャード》レリクスは完成した。まずはその成果を見届ける。
「これならば。片羽唯と互角以上に戦えるだろう」
男はそう呟くと、目を細めて遠方を眺める。
実地試験には、仮想敵の存在が必須。
その到来を、男は冷たい笑みで迎え入れた。




