最後まで、一緒にいられなくて。ごめんなさい
氷怨の唯は、随分と具合の良くなった左義手を動かす。ここまで動くのは、あの日以来だろうかと思い返していた。
エルの首が落ち、リンが焼かれ、エイトとゼロが命と引き替えに時間を稼いだ。
戦い続ける為には、フェイスの協力が必要だった。だが、緑はそれに反対していた。義手なら自分が作ると、組み立ててくれたのがこの左義手だ。正確に言えば、この左義手のプロトタイプ、となるだろう。
数々の戦いと修復、改修を繰り返して。この左義手は今も、自分の左腕としてここに在る。
初めて左義手を動かしたあの日を思い、それでも緑の思いを裏切ったことを思い出す。不自由を自由にしたかった訳ではない。無力な自分に、力が必要だった。そして、それを提供出来る人物は一人だけしかいない。
フェイスからは、もっと上等な物を用意出来ると言われたが。それでも、この左腕だけは残して貰った。大切な物だと知っていたからだ。
逆に言えば。この左腕以外に執着はなかった。脆い骨や皮は強固な素材に置き換わり、役に立たない臓器は日に日に減り、惨めに蠢いていた心臓は理路整然と駆動するデバイスとなった。
氷怨の唯は、明瞭になっていく記憶を前に小さく唸る。緑と光は、自分がフェイスを頼ることを決めた時に離れていった。だからこそ、自分が無力のまま《ラーヴァレイズ》に打ちのめされ、死を目前とした時に、安堵したのだ。少なくとも、緑と光の二人は生き延びたのだと。
現実は違った。いつから見ていたのか。出来損ないのレリクスを庇い、《シールディア》は死線に飛び込み、そして重傷を負った。
その熱傷に、光の小さな身体は耐えきれなかった。緑の方も酷い有り様だ。それでも彼女は、共に光を埋葬した後に言った。
「協力関係ですからね。片目と両腕は残ってますし、最後まで付き合いますよ」
その腕、と緑はこちらを見る。
「まだ付けてたんですね。メンテナンスが必要でしょう?」
顔の半分を血塗れた包帯で覆い、それでも微笑もうとしている彼女の顔は、今でも鮮明に思い返すことが出来る。緑は彼女が宣言した通り、最期までこの戦いに付き合ってくれた。付き合わせてしまった。
それ以降のことは、もう深く思い出す必要もない。自分にとって必要のない部位を機械に置き換え、《ラーヴァレイズ》も《クロウ》も何もかも殺し、必要のなくなったフェイスも殺した。
「……この世界なら。まだ」
氷怨の唯はそう呟き、先程まで見ていた緑の苦笑を思い浮かべる。
包帯姿の微笑みとそれは、何ら変わることなく唯を捉えていた。
プラトーの脅威、《ディメンシャード》レリクスを打倒する為に、唯達は氷怨の唯と共闘することを決めた。
それぞれの思惑を胸に、戦いを選んだ者達は決戦へと向かう。
「そうか……片羽唯も、血と氷のレリクスもいないのか。少し残念だが……これでは、《ディメンシャード》が勝ってしまうかも知れないな」
ブラッドリゾーム第三章
‐理想を描く為に‐
お楽しみに!




