炎を断つ次元
《ブランク》レリクスが駆ける。蜃気楼と炎を伴う突撃で、アロガント達が宙に浮く。それに合わせるように、《アーマードロウ》レリクスと《シールディア》レリクスが跳躍……騎槍と大剣が交差するように振り抜かれ、打ち上げられたアロガント達は地面に辿り着く前に爆散した。
何体かを同時に撃破したものの、まだまだ数が残っている。三騎は一度固まり、周囲を窺う。
唯とリンの《ブランク》は、三々五々に散らばっているアロガント達を見て小さく唸る。
「好き勝手にやってる、しかもかなりの数で」
「例の《ディメンシャード》レリクスもいる。あれが騒動の中心ね」
エイトがふむと呟く。《アーマードロウ》は騎槍の穂先を、付近にいるアロガントに向ける。
「まずはアロガントの排除を優先すべきだろう」
「でも、その間にあのピカピカした奴が大人しくしてると思う?」
エイトの意見にゼロが懸念を表する。そうですねと同意を示しながら《シールディア》が……緑がそれならと提案する。
「分業するしかないですね。あれ相手には三騎で挑みたかったですけど」
「緑姉と俺で、ある程度は分担出来るかな?」
緑の提案に光が補足する。だが、それでもアロガントを蹴散らすには足りない。
状況を自分なりに整理し《ブランク》は、唯は口を開く。
「ならこうしよう。エイトの方が足が速い」
「異論はない」
「やりましょう」
エイトと緑がそれぞれ同意を示す。方針が決まるや否や、三騎は飛び跳ねるように散開する。
『......《Breakdraw》Relics』
空中でエイトとゼロの《アーマードロウ》は《ブレイクドロウ》となり、レリクトのジェット噴射を駆使して飛行する。飛び付いた先は暴れ回るアロガントだ。
「こっちも。行くよ光」
「おう!」
緑と光の《シールディア》は、飛び上がりながら切り札を使う。右膝のサテライトシールドを解き放ちながら、そこにクリスタル状の装備、セカンドリアクターを叩き込む。
クリスタルからは即座に光線が乱舞し、《シールディア》の姿を包み込む。
『Release』
光線が瞬いた瞬間、一騎だったレリクスは二騎に変わっていた。
『......《Shine》Relics』
『......《Right》Relics』
緑と光はそれぞれ《シャイン》レリクスと《ライト》レリクスに分かれ、更に散開……アロガントを標的に攻勢を開始した。
唯とリンの《ブランク》は、真正面にいるアロガントを殴り倒しながら猛進し、そこに佇む銀色の人形、《ディメンシャード》へと突撃する。
「出し惜しみなしで行く!」
「使って」
《ブランク》の右義手型アームドレイターから炎が迸り、それがレリクト・シェルの形となる。それを左手で掴み、アームドレイターに装填しフォアエンドをスライドする。
『ResonateOn』
「こい、つで!」
《ブランク》は両足に力を込め、《ディメンシャード》へと飛び掛かる。炎が溢れ続ける右義手を引き絞ってから、《ディメンシャード》の顔面を殴りつけた。
《ディメンシャード》は避けることも防ぐこともしない。ただ殴られただけ傾ぎ一歩二歩と下がる。
《ブランク》の全身に炎が延焼し、その姿を覆い隠す。そのまま《ブランク》は一歩踏み込み、もう一度炎の右ストレートを繰り出す。
その一撃は炸裂を伴い、《ディメンシャード》を吹き飛ばす。同時に《ブランク》を覆った炎も霧散し、右腕を突き出したレリクスがそこに現れる。
『......《Burned》Relics』
《ブランク》レリクスは、全身に深紅の炎を宿した《バーンド》レリクスとなり、突き出していた右腕を戻す。
《ディメンシャード》は空中で身体を捻り、何事もなかったかのように着地する。
数秒間の沈黙を経て、二騎は引き寄せられるかのように駆け出す。と言っても、《ディメンシャード》の動きは走るというより、見えない手に掴まれた人形が、無理矢理引っ張られているような挙動だ。薄気味悪い光景ではあるが、唯にしてみれば関係がない。
「全部焼き尽くす!」
全身の炎を煌々と輝かせながら、《バーンド》は詰め寄り拳を振り抜く。左のジャブから右のストレート、その連撃を《ディメンシャード》はするすると避ける。
そして、その掴み所のない動作から流れるような動きで回し蹴りが繰り出された。速く鋭いが見切れない程ではない。《バーンド》は両腕をクロスさせそれを防ぐが、見た目以上の威力を前に後方に吹き飛ぶ。
《バーンド》は空中で自ら爆ぜ、体勢を立て直し着地する。
しかし、既に目の前には《ディメンシャード》が接近しており、ふらふらと揺れながら両腕を振り回す。
幾度も繰り返されるそれを避け、時には殴り弾き返しながら、唯は唸る。
「強くなって復活するって聞いてたけど、こういうことか!」
「緑の情報ね。出力は跳ね上がっているし、単純に」
《ディメンシャード》は連撃を放ちながら飛び上がり、やはり見えない手に掴まれているような無機質な動きで縦に回転、変則的なサマーソルトを繰り出す。
弾き返そうとして力負けし、《バーンド》は火の粉をまき散らしながら後退する。
「動きが速い! 雑に強くなってさ!」
唯は毒吐きながら、それでも勝てる相手だと気を引き締める。
《ディメンシャード》はふわりと浮き、横回転しながらこちらへ突っ込む。見えない手に掴まれた《ディメンシャード》がブーメランよろしくぶん投げられたようにも見える。
《バーンド》は拳を構えるしかない。全身を使ったブーメラン攻撃に対し、渾身の右ストレートで迎撃を試みる。
「やってみろよ……らあッ!」
ここしかないというタイミングで、《バーンド》は右ストレートをかます。拳と全身ブーメランがかち合い、互いに一歩も引かない。
拳は炎を吐き出し続け、ブーメランは回転数を上げ続ける。先に吹き飛んだのは。
「ぐうッ!」
《バーンド》の方だ。ブーメランと化した《ディメンシャード》は、その瞬間だけ後退するも、また勢いを増して《バーンド》に迫る。
《バーンド》は地面に背を打ち、炎がくすむ。その間隙を逃すつもりはないのか、《ディメンシャード》は回転数を上げ突撃した。
「今ね」
「ああ」
リンが呟き、唯が頷く。地面を右手で殴りつけ、その勢いで起き上がりながら回転し迫る《ディメンシャード》へと右の拳を振り抜く。
その手には赤熱化した鎖が握り締められている。鎖は《ディメンシャード》の右足を絡め取り、それは自身の回転と合わさり取り返しの付かない巻き込まれを引き起こす。
不純物の混ざった回転は酷く歪になる。そして、その歪な回転であれば。
「止まって見える!」
鎖を手放しながら《バーンド》は跳躍し、両の拳を頭上で組み合わせ、ハンマーよろしくそれを振り下ろした。その拳は、歪な回転となっていた《ディメンシャード》の胴を凹ませる。
《ディメンシャード》は地に落ち、後を追うように《バーンド》は着地する。
仕切り直す為か、《ディメンシャード》は見えない手に引っ張られるように後退しようとする。
だが、今回その動きは出来ない。全身に絡まった鎖、その一端は。今の足が踏みしめているからだ。《ディメンシャード》は大きく離れようとしたものの、実際は一メートルも離れることが出来なかった。
全身の炎が煌々と輝く中、《バーンド》は両の拳を打ち付ける。
「ふらふらうざったいな。正面からやるぞ」
唯は、《バーンド》はそう宣言し、両の拳で《ディメンシャード》を殴打した。一度や二度ではない。殴りつけるごとに速度と重量、そして火力を増しながら、《バーンド》の連撃が《ディメンシャード》の全身を撃ち抜いていく。
その間も足はしっかりと鎖を踏みしめ、後退も吹き飛ぶことも許さない。《ディメンシャード》は人形からサンドバックへと転生し、その連撃を真正面から受け続ける。
最早、《ディメンシャード》が地に足を付くことはない。それ程までに苛烈な連撃だ。
「これで」
《バーンド》は左手で《ディメンシャード》の肩を鷲掴みにする。そして、右の拳を大きく引き絞る。炎が一層と燃え盛り、それらが全て右の拳に集約する。
「終わりだ!」
《バーンド》の右ストレートが、《ディメンシャード》の銀装を貫く。拳は炸裂を伴い、巻き付いた鎖ごと《ディメンシャード》を消し飛ばした。
いや、と《バーンド》は周囲を見渡す。
「手応えが消えた、あいつは」
「あそこにいるわ。直前で逃げたみたいね」
遠く離れた場所に、破片が集約していく。それは《ディメンシャード》を形作るも、その見てくれは先ほどのままだった。手足は崩れかけ、胴体には大穴が空いている。最後の炸裂を、《ディメンシャード》は破片と化すことで避けたのだろうか。
「なら、今度こそ逃がさ」
「唯!」
唯の言葉をリンが遮り、その原因が《バーンド》を通り抜ける。
一瞬だった。傷だらけだった《ディメンシャード》が、瞬くと同時に新品に戻っていた。そして、右手から光剣が形成されて。
今、すれ違うように斬られた。
「ぐッ……!」
遅れて斬撃が《バーンド》に刻まれ、その衝撃に膝を付く。
「再生して……」
「強くなった?」
唯とリンが疑問を口にするも、答えを議論している暇はない。急ぎ立ち上がり、炎を波として放つ。広範囲を焼く優秀な牽制だが、《ディメンシャード》はいつの間にか目の前にいた。
「……速い」
唯が出来たのは、そう呟くことだけだ。
先ほどの仕返しと言わんばかりに、《ディメンシャード》は両腕から光剣を形成し、《バーンド》を斬り付ける。
拘束されていない《バーンド》は、逃げることも反撃することも出来る。だが、そのどれも《ディメンシャード》には届かない。拳は空を掴み、距離を取ろうと飛び退いた所で常に《ディメンシャード》は一定の距離に浮かんでいる。
そして、《ディメンシャード》はふらふらと動きながら、両腕の光剣を振るうのだ。
「つ、くう、くそ!」
「保たない、けど!」
唯は唸り、リンはそれでもプログラムを走らせる。《ディメンシャード》の連撃は、腕を交差するように振るわれたクロス斬りで締め括られた。
《ディメンシャード》はふわりと浮かび、少し離れた位置に着地する。同時に、《バーンド》に散々刻まれた斬撃の全てが遅れてやってきた。
一撃、二撃と身体が震え、あとはあっという間だった。
「な……がああああッ!」
無数の斬撃が《バーンド》を粉微塵にしていく。
遅効性の凌遅刑は、《バーンド》を一瞬で破壊し尽くした。
後に残されたのは、傷だらけになり膝を付く片羽唯と、肩で息をするリンの二人だ。
「とんでも……ないわね」
「どう、するかなこれは」
リンが直前まで粘った結果、こうして命はある。だが《ディメンシャード》は今尚、光剣を携えている。つまり、戦うつもりだ。
《ディメンシャード》は右腕をひょいと振り上げる。地面を掠めながら持ち上げられた光剣は、一条の斬撃波となり唯とリンに迫る。
防ぐことも、回避することも出来ない。
エイトやゼロの重装も、緑や光の盾も。ここにはない。
死は眼前に迫っていた。




