彼の実験
真昼の空が、一文字に引き裂かれる。道行く人々の中で、空を見ていた者だけがそれを捉えた。
だが、そんな記憶もすぐに薄れてしまう。それもその筈、引き裂かれた空から人影が、《ディメンシャード》レリクスが降り立ったからだ。
非日常の光景……のっぺりとした銀色のレリクスは、全身に通ったエネルギーラインを七色に発光させていた。
《ディメンシャード》はその腕を振り上げ、やはり人形のような無機質な動きで空を斬る。次元が再び切り裂かれると、その断面から異形達が零れ落ちた。
そこでようやく、人々は悲鳴を上げる。落ちてきた異形……首のない化け物アロガントが、悲鳴に咆哮を返す。
人々は逃げ惑い、アロガントは叫びながら暴れ回り、手近な物を喰らい吐き捨て、また叫ぶ。
《ディメンシャード》は騒動の中心で、文字通り直立不動のまま時を待っていた。
そこから遠く離れたビルの屋上で、一人のドクターが双眼鏡を覗く。手元の端末には、監視ドローンによる映像が映し出されていたが。男は直接視認することを好んだ。
騒動の数々を双眼鏡で見据えてから、微動だにしない《ディメンシャード》を捉えた。電源の切れた人形のように動かないが、全身に通ったエネルギーラインは忙しなく流動し、その色を次から次へと変えていく。
「次元を拓き、中の物を取り出したのか? 《デディメンシャード》が招いたアロガント……通常個体とは少し違うな」
所感を呟きながら、男は広がっていく混乱を見定める。プラトーとして、この混乱を収める必要はない。これはある意味、《ディメンシャード》が行っている実験……挑戦と未来なのだ。
ふと、それまで動きを見せなかった《ディメンシャード》が視線を向ける。こちらに、ではない。
双眼鏡で視線の先を辿り、男は小さく頷く。
三騎のレリクスが、アロガントを蹴散らしながら進んでいる。
「主役の登場。君の実験が始まるな」
そう《ディメンシャード》に語りかけながら、男は僅かに微笑んだ。




