やるべきこと
吐いた息が白く染まる。全ての命を平等に眠らせる静謐な冬が、温度を酷く下げていた。
慣れ親しんだ寒さだ。レリクスの鎧を霧散させた氷怨の唯は、冷気を通じて周囲を探り、完全な沈黙を確認する。
また一つ、プラトーの施設を制圧した。仲間との再会や語らいは、こう成り果てた今であっても……いや、今だからこそ代え難い時間だった。
同時に気付いた事もある。この世界における自分の役割だ。プラトーを殲滅する、日常を守る為に非日常を殺す。その骨子は変わらない。
だが、今はそれに加えて。かつての仲間達も、日常に帰ることが出来るのではと。そう考える用になった。こう成り果てる前の自分も含め、この世界ならそれが叶う。かも知れない。
故に、氷怨の唯は日が昇ると同時に襲撃を再開した。手段はいつもと変わらない。要石となる殲滅対象の元へ転移し、冬を広げ全てを氷に閉じこめる。所要時間は数分程度、その僅かな時間で、プラトーの連中に災害をもたらす。では次にと行きたい所だが、空間を飛び越えるには幾つもの制約がある。その一つが、連続しての転移は出来ない、というものだった。
「それが出来れば、戦いにも使えるのにな」
作られた心臓が音を立てながら駆動して、転移の準備を進めている。まだしばらく掛かるだろう。
「……あいつは。早めに殺しておかないと」
氷怨の唯は小さく呟く。以前喰らったデータから、一番の危険人物であるドクター・フェイスは死亡していると知った。他にも、特定の状況下で危険となるドクター・ウォームも死亡していた。大変結構なことだ。
だが、と氷怨の唯は目を細める。後一人、可能ならもう二人……息の根を止めておきたい危険人物がいる。
この三人は、他のドクターと同じような通り名を持たない。プラトーの中でも特殊な、運営側の人物だ。
全身を義体化した義体老師に、数字に取り憑かれた会計士……そして、あの平坦な男。
この中で、義体老師と会計士は後回しでも構わない。だが、あの平坦な男だけは今すぐにでも殺しておきたい。
残念ながら、この施設にはいなかった。三人合わせたとてフェイス以下、しかし並外れた天才であることは確かであり、自分が元の世界で最後に対峙した相手でもある。
「次元のあれやこれを研究している、掴み所のない奴。何かしでかす前に殺す」
そう意気込んではいるものの、奴の潜伏している施設に飛べるかどうかは運次第だ。自分の持ち得ない物の一つだなと、氷怨の唯は鼻で笑う。
そうして冬の中心で準備を待っている最中、ふと揺らぎを感じ視線を向ける。ここではない、もっとずっと遠い場所だ。
目を細め、その反応を探る。
「……次元から漏れたアロガントか? だが俺のいる場所じゃない」
氷怨の唯は舌打ちをする。
「もう一つの次元……《ディメンシャード》か」
その正体を引き当てるも、まだ心臓は駆動音を響かせている。
そこへ飛び込むまで、まだ少し時間が必要だった。




