第一章 ~ 旅立ちの朝 ~
朝日が山の向こうから顔を出し、静かな村を優しく照らしていた。
黄泉村――霊を祓う一族が代々暮らすこの村に、今日も平穏な朝が訪れる。
「ふぁ~~……あぁ、気持ちいい朝だな!」
茶色のくせ毛をぼさぼさのまま、村の小道を走る少年、黄泉神トウマ。
昨日のサブローからの逃走劇は、村中の笑い話になっていた。
「さてと、いよいよ今日か……!」
トウマは、村の端にある小さな家に戻ると、古びた木箱を開けた。
中には、これまで集めたお守り、護符、竹刀、ボロボロの修行着が詰まっている。
さらに、センセーからもらった小さな石のペンダントも大事に握りしめた。
「よし、準備完了っと!」
背負い袋に荷物を詰め、最後に残ったのは――
「ばーちゃんに挨拶しねぇとな。」
トウマには両親がいない。
物心ついた頃から、祖母の黄泉神ミネに育てられてきた。
彼女は今も、小さな畑で野菜を摘んでいる。
「ばーちゃん!」
「おやおや、トウマかい。もう行くのかい?」
ミネはシワだらけの優しい顔を向け、にこりと笑った。
「うん!世界一の祓い屋になって、でっかい仕事してくる!」
「ふふふ、お前は昔から騒がしい子だねぇ。……でも、気をつけるんだよ。」
そう言って、ミネはポケットから小さなお守りを取り出し、トウマの首にかけた。
「これを持っていきな。困ったとき、きっと助けになる。」
「サンキュー、ばーちゃん!」
トウマは満面の笑顔で抱きつき、ミネは目を細めた。
「お前のセンセーも、きっとどこかで見てるさ。」
その言葉に、トウマは少しだけ表情を引き締め、静かに頷いた。
「じゃあ、行ってくるぜ!」
「気をつけてねぇ。」
村の出口に向かうと、すでに村の子供たちが集まっていた。
ガキ大将のカンタと、その仲間たち。
「おーい、祓い屋様のお通りだー!」
「どうせ三日で逃げ帰ってくんだろー!」
「妖怪におしっこ漏らして泣くんだぜー!」
口々にバカにする子供たち。
トウマは眉をひそめながら、ふんっと鼻を鳴らした。
「このクソガキどもが……!」
パキンと音がして、トウマの額に青筋が浮かぶ。
「オイ、そこに並べぇぇぇぇ!」
子供たちは「ひゃー!」と逃げ出したが、トウマはすかさず追いかける。
「待てコラァァ!」
村の路地を駆け抜け、次々と子供の耳を掴んでいく。
「いたたたたた!ごめんなさーい!」
「悪かったってばー!」
「もう言わないー!」
「わかればいい!」
耳をつまんだまま全員を一列に並べ、トウマは威張った顔で言った。
「俺はな、必ず世界一になって帰ってくるんだ。いいか、よーく覚えとけ!」
「は、はいー!」
子供たちは泣きべそをかきながら頷く。
「よし!」
満足したトウマは子供たちの耳を離し、振り返って村の門へと歩き出した。
門の前に立つと、木漏れ日の中、静かな風が吹き抜ける。
「センセー……。俺、行ってくるぜ。」
ポケットから小さなペンダントを取り出し、ギュッと握りしめる。
「絶対、あんたに追いついてみせるからな。」
そう呟き、トウマは足を踏み出した。
村の外の広い道。
その先に待ち受けるのは、未知なる冒険と、まだ見ぬ運命。
「よーし、まずは近くの町で仕事探しだな!」
くせ毛を揺らしながら、陽気に笑い、トウマは新たな一歩を踏み出した。
その背中に、村の誰もが小さくエールを送ったことを、本人はまだ知らない。




