プロローグ ~ 俺の夢と、あの日の約束 ~
「待てコラァァァァァ!金払えぇぇぇぇッ!」
村の食堂の厨房から、怒鳴り声が響き渡る。
その声の主は、がっしりした体格の大男、サブロー。
そして、その男の怒りの矛先は――
「ひゃっはー!タダ飯最高ーっ!」
逃げるのは、十八歳のくせ毛少年、黄泉神トウマである。
「待てコラ!いつもいつもツケで済むと思うなよ!」
「いいじゃんサブローさん!俺、世界一の祓い屋になったらまとめて払うって約束するからさ!」
「お前なんか、虫一匹も祓えねぇよ、このアホがぁぁぁ!」
怒りのサブローが包丁片手に追いかける中、村のあちこちを駆け抜けるトウマ。
「やっべぇ……あの人、今日ガチで怒ってる!」
慌てて物陰に隠れ、息を潜める。
その瞬間――不意に、幼い頃の記憶が蘇った。
***
薄暗い森の中、小さなトウマが、仮面をつけた男の隣に座っていた。
その男には顔の表情がなく、ただ静かに空を見上げている。
「ねぇ、センセー。俺、どうやったら強い祓い屋になれるの?」
そう尋ねる幼いトウマに、仮面の男は少しだけ考え込んだ。
「んー……そうだな。もっと鍛えた方がいいんじゃないか?」
「ふん!じゃあ俺、絶対センセーより強くなってやるもん!」
「ハッ、寝言は寝て言え。」
そんな他愛もないやり取り。
けれど、トウマにとっては大切な思い出だった。
***
「……消えちまってさ、センセー。今どこにいるのか知らねーけど……俺、証明してやるからな。」
そう呟いた瞬間――
「みーつけたぁぁぁ!」
「ひぇっ!」
隠れていたトウマの背後から、再びサブローの怒号が響く。
「あ、どーも。」
「『どーも』じゃねぇ!金払えぇぇぇ!」
ヤバい、とトウマはポケットを探るフリをする。
「あー……えーと……ほら、今出すからさ!」
と、見せかけた次の瞬間!
ガッ!
トウマの足が素早くサブローの股間にクリティカルヒット。
「ぐふっ……!?」
「約束するってば!今度絶対払う!」
そう叫びながら、再び村の路地裏へと駆け抜けるトウマの姿。
「このクソガキがぁぁぁぁぁ!」
サブローの怒号が、今日も村に響き渡るのだった。