プロローグ:絆の谷、最初の幕 6
──そして、ネオスが沈黙したその瞬間。
世界のどこかで、なにかが“壊れた”。
――砂漠の奥、かつて希望を守った聖域。
巨大な結晶の間で、虹色の輝きを帯びたドラゴンが、苦悶の咆哮を上げていた。
「どうして……なぜ……!」
その声は、もはや届かない。
《レインボー・ドラゴン》――
希望の化身だった彼の身体に、黒い亀裂が走る。
それは罪でも怒りでもない。
ただ、“支えとなる光”を失った痛みだった。
「……ネオス……?」
彼が最後に呟いたその名が、深い闇に沈むとき――
代わりに生まれたのは、歪んだ残像。
七つの輝きはすべて闇に染まり、
**《レインボー・ダーク・ドラゴン》**が世界に現れる。
――別の空。
廃都の路地裏で、何者かが膝をついていた。
かつて、正義のヒーローだった精霊たち。
今や、その目には光はなく、名を呼ぶ者もいない。
「守るべき“誰か”がいないなら……俺たちは、なんのために立ち上がればいい?」
静かに、かつての誓いが崩れていく。
闇の影が重なり合い、仮面をかぶった兵士が立ち上がる。
それは**《E・HERO》ではなく、イービルな《HERO》**
《Evil HERO マリシャス・デビル》――
燃え上がる“破壊の意思”が、世界の一角を喰らう。
――最果ての空間。
封じられた聖堂の深奥。
冷たい祈りの中で、ひとつの封印が音を立てて軋む。
「……彼女が……封印を解いたのではない。
“理”が、耐えきれなかったのだ」
低く、深く、荘厳な声。
堕天使たちの魂が、静かに目を覚ます。
だがその目にあるのは、慈しみでも、哀しみでもない。
それは、破壊の美学だった。
「もう……理など、いらない」
封印の結界が砕け、七つの罪を背負う堕天の軍勢が歩き出す。
――そして世界は、“光”をひとつ失った。
それだけのことで、
どれだけのものが“正常を保っていたか”を、
今さら気づいたところで、もう遅かった。
物語は、動き始めた。
悲劇の幕は下りない。
なぜなら――まだ、“主役”が欠けているから。