嫉妬のかけら 4
Scene:灰色の谷 ― 響いた声、歪んだ願い
岩壁の裂け目を吹き抜ける風が、かすかに音を運んでくる。
――…なんでだよ。
その声は、誰のものともつかず、風とともに谷に反響する。
ネオスたちが足を止めると、前方の崖上に、ひとりの影が浮かび上がった。
それは……確かにアームド・ドラゴンだった。
けれどその背はわずかに歪み、肩から延びた鱗の色はかつての光沢を失っていた。
「……やっぱり、どこかおかしい」
ハネクリボーが、そっとネオスの背にしがみついた。
その影は、ただ一人、誰にも気づかれないようにぽつりと呟いていた。
「なんで……あいつだけ……」
「なんで……認められて、選ばれて……」
その声に、確かな“色”が宿る。
それは怒りとも違う。悲しみとも、虚無とも違う。
ただ、積もりに積もった感情――
「……わかってたんだ。ずっと、見てたんだ。目立たない僕らの横で、輝いてたお前を……!」
影がこちらを向いた。
その瞬間――
パァン!
身体の一部に、黒い稲妻のようなヒビが走る。
「あっ……!」
おじゃま・ブラックが声を上げる。
「だめだよ……そのままだと……!」
「もう……止まんない。止め方なんて、知らないんだ……!」
ひび割れた身体の中から、漆黒の光があふれ始める。
角が伸び、翼が裂けるように広がっていく。
その変化は、誰かに命じられたものでも、与えられたものでもなかった。
――たったひとつの想いが、心の底で腐り、染み込み、形を変えていっただけだった。
「来るよ……!」
ネオスが身構える。
そして、おじゃまたちはただ、静かに呟いた。
「……ごめんな。気づいてあげられなかった」
――その影は、もう何も言わず、ただ吠えた。
自分でも抑えきれない衝動を喉に抱えたまま。
戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。




