嫉妬のかけら 3
Scene:灰色の谷 ― 強さの影
谷の奥へと進むにつれて、足元の土は乾ききり、風すらも鳴りを潜めていった。
「……さっきから、誰かに見られてる気がするよ」
おじゃま・グリーンが不安げに呟く。
ネオスは周囲を見渡しながら前へ進む。岩壁には、かすかに焼け焦げた痕跡が残されていた。爆発の跡とも、衝突の痕跡ともつかない、異様な爪痕のような傷。
「戦った跡……かな。でも、誰と……?」
そのとき。
ザリ……ザリ……
岩の上を、何かが這う音がした。
「来るよ!」
ハネクリボーの声と同時に、谷の天井を駆けるように影が走った。
暗がりから――
ごうっ、と風が唸った。
「下がって!」
ネオスが叫ぶ間もなく、爆風のような突風が岩壁をえぐり、岩片が飛び散る。
煙の中から現れたのは――
鋭い角、鋼の翼、荒れ狂う黒の気流を纏った龍の影。
「アームド・ドラゴン……!?」
だが、その姿は明らかに“以前の彼”とは違っていた。
体の一部はひび割れ、ところどころに黒い結晶のようなものが食い込んでいる。眼は正気を欠き、怒りとも悲しみともつかぬ色に濁っていた。
「違う……これは、ボクたちが知ってる“あいつ”じゃない……!」
おじゃまたちが言葉を飲み込む。
「でも……なんとなく、伝わってくるんだ」
おじゃま・ブラックが、小さな声で続けた。
「どうして“あいつばっかり”って、ずっと思ってたのかもしれない。だから……」
ルビーがその場に立ち尽くしながら、ぽつりとつぶやいた。
「……誰かに助けてほしいって、心のどこかで叫んでる気がするの」
ネオスは拳を握りしめた。
「だったら、俺たちは……その叫びを無視するわけにはいかない」
黒き竜が、吠えた。
音が地を揺るがし、谷を震わせる。
それは、怒りの咆哮か。それとも、届かぬ助けを呼ぶ声か――。
ネオスたちは、立ち上がる。
「行こう。あいつを“止める”ために」
「うん。でも、“倒す”んじゃなく、“取り戻す”んだよね」
「当然だよ!」
おじゃまたちが続いた。
――その牙の奥にあるものが何であれ、いまはただ、その力に呑まれる前に、届くことを信じて。




