怠惰のかけら 18
Scene:機械仕掛けの街 ― 忘れられた声
警報音と火花の中で、ネオスたちは巨大な装置の前に立っていた。
街の中枢が暴走を始める中、その奥から微かな音が聞こえてくる。
カン、カン、カン……
それは、まるで扉の内側から、小さな誰かが叩いているような音だった。
「……あれは……」
ルビーが顔を上げたそのときだった。
バシュッ!
側面のパネルが弾け飛び、勢いよく飛び出してきたのは――
「おいおい! なーんだよコレ!? もうちょっとでプレスされるとこだったじゃねぇか!!」
黄色い姿の精霊が、頭を押さえながら転がり出てきた。
「……お、おじゃまイエロー!?」
ハネクリボーが目を見開くと、続けてもう2体が転がってくる。
「いてて……オレ様の完璧なボディが台無しだぞ!」
「うわぁぁん! 怖かったぁ~!」
「……お、おじゃまトリオ、揃ってる!?」
ルビーが目を丸くする中、おじゃまたちはネオスたちに気づくと、飛びつくように駆け寄ってきた。
「ネオス! お前だったのか!? 外から呼んでくれたの、オマエだよな!?」
「覚えてなくてもいい! けど、ありがとな! おかげで出られた!」
「ていうか、外……明るいね……?」
3体は互いに肩を抱き合い、まだ震えたままの体で外気を感じていた。
ネオスは静かに頷いた。
「……君たちが、中にいたんだな」
「まったく、ヒドイ話だぜ! “効率化”とか“命令従順”とか……そんなのばっか押し付けられて……!」
イエローが怒りを込めて叫ぶ。
「でもさ」
グリーンがぽつりと口を開いた。
「……なんか、おかしかったんだ。あのままだと、何も考えずに、命令通りに動くだけになっちまいそうで……」
「それがイヤだったの」
ブラックが小さく呟く。
「逃げ出したくて、でも、どうやったら“逃げたい”って思えるかもわかんなくなって……」
その声に、ネオスは胸の奥が締め付けられるような思いを覚えた。
「でも、君たちは、考えることをやめなかった。それだけで、もう――」
言葉にしようとしたとき、背後の中枢部から再び駆動音が唸りをあげた。
街はまだ、彼らを“エラー”として排除しようとしている。
「ネオス、ルビー、ハネクリボー!」
おじゃまイエローが振り返る。
「ここはオレたちに任せろ。まだ動ける。まだ、ぶっ壊せる!」
「オマエたちはこの先に進め!」
「……この街は、もう忘れてたんだ。オレたちだって、ちゃんと考えて、悩めるってこと」
ネオスは一瞬迷い、しかししっかりと頷いた。
「わかった。……ありがとう」
「行け! ヒーロー!」
おじゃまトリオの声が、背を押す。
ネオス、ルビーカーバンクル、ハネクリボーは、再び走り出した。
その背後では、おじゃまたちの声が響いていた。
「よっしゃあ! オーバークロックしてやるぜぇぇぇ!」
「さぁて、これからが本番だぞ、街の制御さんよぉぉ!」
「うわぁぁん! でも頑張るぅぅぅ!」
そして、機械仕掛けの街の奥で――確かに、誰かの“心”が動き出していた。




