プロローグ:絆の谷、最初の幕 5
ネオス・ワイズマンが地に立つ。
その光は、谷のすべてを照らしていた。
混ざり合うはずのなかったものが、今ここに“ひとつ”として在る。
その存在に、仮面をかぶった精霊たちが一瞬、動きを止める。
けれど――その静寂すら、演出だった。
「……ようやく現れましたね。」
まるで拍手に続く“カーテンコール”のように、
その声は舞台袖から滑り込むように響いた。
観客が、演者が、すべての視線をそちらに向ける。
舞台の中央に現れたのは、
紅と黒のドレスに身を包んだ女――《デスピアン・クエリティス》
「遅れて申し訳ありません、主役の皆さま。
ですが、本日最大の“演目”は、ここからでございます」
彼女は、ゆっくりと優雅に一礼する。
「さあ、皆さま。これより――“融合という奇跡”を解いていただきます。」
その言葉と同時に、クエリティスの背後に、巨大な魔法陣が展開する。
燃えるような紅蓮の紋様。
魔法カード――《融合解除(De-Fusion)》。
けれどそれは、“ただの魔法”ではなかった。
「この演目に、奇跡はいらない。
脚本にないものは、削除させていただきます――それが、この舞台の“美しさ”です」
魔法陣が脈動し、ネオス・ワイズマンの身体に“拒絶の鎖”が巻き付く。
「……なっ、これは……!」
「ネオス……!」
ふたりの声が重なる。
けれど、もうふたりは、“ひとつ”ではいられなかった。
融合が、音を立てて剥がされていく。
その中心にある――《超融合》のコアが、強制的に引きずり出されていく。
「……返せ……それは……!」
「あなたのものではありません。
それは、“舞台の鍵”なのですから。」
ネオス・ワイズマンの形が崩れ、光と闇が分離していく。
ユベルの身体がふらつき、崩れ落ちたその瞬間――
クエリティスの手を取った“仮面の役者たち”が、彼女をすばやく囲み、連れ去っていく。
「ユベル!!」
ネオスが叫ぶ。
でも、もう彼女には届かない。
光だったネオスの姿は、地に倒れ、
谷の空は――その瞬間、音もなく色を失った。
世界は、静かに崩れ始めていた