プロローグ:絆の谷、最初の幕 4
「演目にない者は、排除せよ」
どこからともなく響いたその声に応じて、観客席の仮面たちが一斉に動き出した。
その姿は、かつて谷に暮らしていた精霊たち。
けれど今は、顔に仮面をかぶり、脚本に従うだけの“演者”に変えられていた。
「……っ、やっぱり、こういうことだったのね……!」
ユベルが手を伸ばすと、空間が裂けるように炎の鎖が生まれ、迫りくる精霊を縛った。
ネオスもすかさず前に出て、光の障壁を展開する。
「傷つけたくはない。でも……今のままじゃ、もう“自分”じゃない……!」
光の拳が、仮面の胸を貫いた。
しかし仮面は砕けず、そのまま倒れて、また立ち上がった。
「“私は王女です。泣かなくちゃいけません”」
「“あの役を、私がやらなきゃ”」
台詞を繰り返しながら、彼らは笑顔のまま襲いかかってくる。
「ユベル、後ろ!」
「わかってる!」
ネオスが片手をかざし、稲妻のような光線を放つ。
ユベルはその隙に別の方向へ回り込み、仮面の役者たちの影を切り裂いた。
ふたりの動きは、言葉がなくても噛み合っていた。
何度も並んで戦ってきた記憶と絆が、そこにあった。
けれど――終わらない。
舞台の袖から、また新たな演者が現れる。
幕の外から、脚本に従う観客が舞台へと“上がってくる”。
「……これじゃ、キリがない」
ネオスが息をつくと、ユベルもまた肩を上下させて、呟いた。
「戦えるけど……演目そのものが、敵になってる……」
「なら、いくか――あれを」
ふたりの視線が重なる。
その一瞬だけ、谷の騒がしさが遠のいたように感じた。
「……“ひとつ”に」
「ええ。今だけは、完全に――わたしたちの力を」
ふたりが手を伸ばす。
光と闇が、螺旋を描いて重なっていく。
「――融合」
「――召喚」
その瞬間、空が裂け、世界が震える。
光と闇、希望と絶望。
すべてが混ざり合い、
伝説の存在――《ネオス・ワイズマン》が、再臨する。