怠惰のかけら 7
Scene:機械仕掛けの街 ― 笑顔の仮面と記憶の奥へ
無機質な構造体が、規則正しく並ぶ街。
風が吹くたび、錆びついた鉄骨が軋んだ音を立てる。
それはまるで、誰にも届かない呻きのように聞こえた。
そんな中、ネオスのすぐ前を、仮面をかぶった小さな影がひょいひょいと跳ねながら進んでいた。
「ねぇネオスくん、真面目すぎるのって疲れない?」
仮面の下から、軽やかな声が投げかけられる。
ネオスは歩みを止め、静かに答える。
「……疲れても、背負うべきものはある。僕は、そう思ってる」
それは否定ではない。けれど、肯定でもなかった。
ブルーは肩をすくめて笑う。
「うん、うん。正しいね。まっすぐすぎて、こっちがくすぐったくなるよ」
ふざけたようなその声に、どこか無理をしている色が滲む。
「でもね。ボクらは、重いのは苦手でさ。
ふざけてないと、息が詰まっちゃうんだ。笑って、ふざけて、忘れて、逃げて。
それでも生きてたら、それでいいって思ってる」
ネオスは黙って耳を傾ける。
「それは……君自身の言葉か?」
問いかけに、ブルーはふっと目を細めた。
「さぁね。でも、今のボクは、こうじゃないと動けなかった。
……本当は、ちゃんと語れるようになりたかったんだけど」
その言葉に、ネオスの瞳が揺れる。
「なら、教えてほしい。君たちがここにいて、笑っている理由を」
ブルーはその言葉をしばらく噛みしめるように沈黙し、やがて小さく笑った。
「へぇ、ネオスくんって意外とずるいこと言うんだね。……わかった。
じゃあ、特別に見せてあげる。ボクたちの“忘れたかったもの”を」
そう言って、ブルーは路地の奥へと足を進める。
道はやがて、巨大な半球体の建物へと繋がっていた。
入り口の扉は機械的な音を立てて開いた。
冷たい風が内側から吹き出す。
「ここが、“記憶領域”。……この街に刻まれた、記録の保管庫」
中は広く、無数の光る装置が並ぶ。
空中を漂うホログラムが、かつての街の情景を映し出していた。
人々が笑い合い、動く機械とともに暮らしていた光景――
だがそれは、やがて狂い、崩れ、沈黙へと変わっていく。
ルビーカーバンクルが静かに言った。
「……これは、忘れられたわけじゃない。
忘れようとして、壊してしまった記憶……」
ネオスはその映像を見つめながら、何も言えずに立ち尽くしていた。
ブルーが、背中越しに呟いた。
「だからさ。ネオスくんみたいに、まっすぐ進むのはすごいよ。
でもね……まっすぐな道ばっかりじゃ、見えないものもあるんだ」
その言葉は、まるで彼自身にも向けたような、そんな響きを持っていた。




