憤怒のかけら 20
Scene:時計塔内部 ― 動き出す時の針
塔内に満ちていた衝撃の余韻が、ようやく静かに消えていく。
天井の割れ目から一筋の光が差し込み、粉塵に揺れるその光は、まるで希望のようにも、過去の亡霊のようにも見えた。
ネオスは、ようやく立ち上がった。
傍らにはハネクリボー、少し離れてルビーカーバンクルが肩を上下させながら静かに息をついている。
床に倒れていたブルーDが重たい身体を起こし、ゆっくりと壁にもたれた。
その眼に宿っていた狂気は、ほんのわずかに、しかし確かに色を失っていた。
ドレッドガイもまた、拳を握ったまま立ち上がる。
だが、その眼差しには先ほどのような敵意はない。
「……戦いの意味なんて、俺にも分からなくなっていた」
「だが、まだこの場所に、俺たちがやるべきことは残ってる」
ブルーDが静かに頷いた。
「……帳尻を合わせるつもりはない。だが、逃げるのも違う」
ドレッドガイがネオスへと視線を向ける。
「ネオス……この先に進むのは、お前たちの役目だ。だが――」
彼はわずかに口元を歪めた。
「ここから先は、俺たちが片をつける。そうでなければ、何も変われない」
ネオスは、静かに目を閉じる。
言葉は出なかったが、その背で語るように、ただ頷いた。
ルビーカーバンクルが小さく口を開く。
「……また、会えるよね?」
ブルーDは、沈黙の中で立ち上がると、ルビーの頭にそっと手を置いた。
彼にしては珍しく、穏やかな仕草だった。
「先に行け。……この街の終わりか始まりかを決めるのは、お前たちだ」
ドレッドガイもまた、塔の奥へと歩き出しながら背を向ける。
「誰もが“希望”なんてものを信じられるほど、綺麗な世界じゃない。……だが、汚れたままでも歩き続ける奴がいるなら――」
振り返らずに続ける。
「……せめて、踏み込めるようにはしてやるよ」
ネオス、ハネクリボー、ルビーカーバンクルは再び並んで歩き出す。
後ろには、かつて敵だった2人の背中が、静かに残されていた。
そして、止まっていた時計塔の針が――かすかに音を立てて、動き出した。




