憤怒のかけら 16
Scene:時計塔内部 ― 揺らぐ心、削れる力
閃光。衝撃。怒号。
崩れかけた時計塔の内部に、三つの力がぶつかり合う音が響き渡る。
ドレッドガイの鋭い突進。ブルーDの鋼のような拳。
そして、それらを止めようとするネオスの光。
「止まれッ!!」
ネオスが叫ぶ。
その一撃は確かに二人の衝突の隙を突いたが、返すように放たれたカウンターが胸にめり込む。
「……くっ……!」
ネオスの身体が吹き飛び、瓦礫に叩きつけられる。
粉塵の中、ネオスは膝をつきながら息を整えた。
体が重い。視界が揺れる。それでも、立ち上がろうとする。
(まだ……俺が、やらなきゃ……)
拳を握る。その指は震えていた。
「ネオス、もう無理だよ!」
ハネクリボーの声が届く。
だが、ネオスは応えない。
小さく唇を噛み、ふらつく足で再び前に出ようとする。
「……俺が止めないと、誰も……!」
震える声が空間に消える。
言いながら、自分でもわかっている。
このままでは持たないと。
それでも、立ち止まることができなかった。
「ネオス!」
ルビーの叫びが届くその直前――
ドレッドガイの蹴りが風を裂き、ネオスの腹部を捉える。
間髪入れずにブルーDの拳が振り下ろされる。
ネオスの防御は、もはや紙のように破られた。
床に叩きつけられたネオスの体は、再び動けなくなる。
彼の周囲には亀裂が走り、崩れかけた柱がひとつ、ゆっくりと落ちていく。
「……俺じゃ、ないと……」
その言葉は、もはや願いにも似ていた。
何かを守りたい。変えたい。取り戻したい。
けれど、その“想い”を貫こうとする姿勢が、
誰の声も届かなくする“壁”になっていることに、ネオスはまだ気付けない。
一方、暴走するブルーDは、目の前の存在すら見えていないかのように暴れ続ける。
ドレッドガイの拳も、理性なきままに振り抜かれる。
戦いはすでに、止めることができる段階を越えていた。
瓦礫の向こう、ハネクリボーが呟く。
「……ネオス……どうか、誰かの手を……握って……」
その声は、今のネオスには届いていない。




