プロローグ:絆の谷、最初の幕 2
谷の中心部には、大きな広場があった。
精霊たちはそこに色とりどりの花を飾り、風に揺れる旗を並べている。
普段はひっそりとしたこの谷も、今日はまるでお祭りのようだった。
「すごい……あっちの屋台、空中に浮いてる!」
「なぁ、ほんとに来るのか?あの“笑う猛獣使い”って……」
「劇団のチラシ、どこに飾る!?いちばん目立つとこがいい!」
精霊たちは年齢も種族も関係なく、ただただ“興奮”に包まれていた。
ネオスとユベルが近づくと、数人が目を輝かせて振り向く。
「あっ、ネオス!ユベル!来てくれるんだね!」
「ねえねえ、どこで見る?やっぱり前の方がいいよね?」
ネオスは、少し困ったように笑った。
これほどまでに、谷の空気が明るくなるのは――正直、初めてのことだった。
「みんな……ずいぶん楽しみにしてるんだな」
「うん。この世界に“楽しみ”が残ってるって、すごいことだと思うの」
ユベルはそう言って、小さく肩を寄せてきた。
そして――
それは、やってきた。
突然、空が“紙のように破れた”。
どこか陽気なファンファーレが鳴り響き、虹色の火花が空に咲く。
広場の中央に、異様に精密な赤い幕が、まるで地面から生えるように立ち上がる。
「さぁさ皆さん、お待たせしましたぁ!!
ようこそ我らが舞台へ! 夢と涙の大・大・大劇場、魔界劇団サーカス・イン・ザ・スカイ、開演でぇす!!」
その声と共に、ピエロ、猛獣使い、仮面の踊り子たちが姿を現す。
誰もがカラフルで楽しげで、けれど――どこか“隠された何か”を持っていた。
ネオスは、その眩しさに目を細めながら、
胸の奥で、ほんのわずかに“何かがひっかかる”のを感じていた。