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虐げられる元令嬢が幸せを掴むまで

作者: 緑玉

「きったねぇな!」

「気持ち悪いヤツ!」


ボロボロの着物を纏った少年がひとり、大通りから少し入った細い道で身なりの良い他の少年たちから暴言を吐かれている。砂をかけられ蹲ると、少年たちが蹴りを入れようと足をあげた。


その時、一人の女の子が全速力で走ってきてイジメ少年に体当たりした。

今にも蹴ろうと片足立ち状態だった少年は簡単にバランスを崩し横に吹っ飛んでしまった。


「あなたたち!見苦しい行為はおやめなさい!」


「ぁんだとてめぇ!」


やり返そうと体当たりされた少年は立ち上がって大声で威嚇したが、他の仲間が少女を見て慌てて止める。


「やめとけ、大原家のご令嬢だ、親にチクられたら俺たち終わりだ」


その言葉に虐めていた少年達はあっという間にその場から消えていった。


「謝罪も無いなんて非道いわね」

そう言うとくるっと虐められていた少年の方へ振り向き優しく微笑みながら言葉をかけた。

「もう大丈夫よ。砂まみれね、可哀想に。」

そう言いながら砂を軽く払っていると、後ろから護衛と見られる大人が数人慌てて令嬢の方に向かってきた。

「お嬢様っ、そのようなことを!」

そう言いながら砂まみれの少年を見た護衛はヒッと声にならない声を出した。

ボロを纏うだけでなく、長くボサボサに絡まった髪、そこから覗く醜い顔が見えてしまったのだ。


だが令嬢はそんな事を全く気にしない様子で、もう行かなくちゃと言って少年に手を振ってくれた。


「私、華っていうの。またね!」


残された少年は、自分の見た目に捉われず窮地を救ってくれた令嬢のことを、後ろ姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。





♢♢♢

時は流れ、高い地位を築いていた大原家は事業に失敗し爵位をなくし、その後病気で当主夫妻が亡くなると一人娘の華は、親戚の日野家に引き取られ生活していた。


ただし令嬢としてではなく、使用人としてだが。


「華!早くしてよ、満雄様を待たせちゃうじゃない!」

「申し訳ありません。すぐに直しますので…」


日野家の娘である絵梨花は見た目は美しいが気性が激しく、4年前に没落した大原家からやって来た自分に負けず劣らずの美しい華が一緒に暮らすと決まった時、強い抵抗感を示していた。

それは絵梨花の母も同じで…


「絵梨花、支度は終わったのかい?」


障子を勢いよく開けて声をかけてきたのは養母である日野橙子。日野家当主の日野正志はもともと前に妻がいたが病弱のため早くに亡くなり、後妻として橙子と彼女の娘、絵梨花を迎えていた。


「まだよ。この子のせいよ。」


そう絵梨花が言えば養母はギロリと華を睨み付け、持っていた扇子で華を打ち付けた。

彼女にとって、没落しているとはいえ生粋の貴族令嬢であり美しい華は、平民出身で運良く子爵家の後妻に収まっただけの身としては面白くない存在だった。






ーーー

絵梨花を見送り、町に買い出しに来た華は、ついこの間までよく会っていた人物がいないか探してみる。けれど今日も彼は居なかった。

諦めて買い物を続けていると、人々がある話題で盛り上がっているのが聞こえた。


「とっても素敵らしいわ、成人の儀に招かれた家の人から聞いたんだけどね〜」

「私も聞いたわ、遠い街で勉強なさってたとか!道理でね、ここら辺で見かけたら大騒ぎになってるはずだもの」

「藤ヶ谷家にそんな跡取りがいらっしゃったのね〜」


盗み聞きのようになってしまったが、あちらこちらで噂話がされてるものだから自然と耳に入ってきてしまう。

要約すると、藤ヶ谷家の一人息子が遠い街から実家に帰ってきて、その彼が大変見目麗しい方で皆んなが大騒ぎ、というわけだ。




ーーー

買い出しを終えて晩御飯の仕込みをし、絵梨花が帰宅したらその着替えを手伝い、夕飯の準備を行う。

華は、いつも皆んなが食事を終えたあとの空き時間でササッと済ませるだけなので、夕食時は配膳係をしている。


正志と橙子、絵梨花が席について夕飯を食べながら会話をしていると、今日町で聞いた噂話が話題に上り、ついつい華は配膳をしながら内容に耳を傾けた。


「藤ヶ谷家の嫡男か、龍一殿といったか。あそこは代々子どもが産まれるとすぐに遠くの親戚のところにやって成人したら帰ってくる風習だったな。」

「えぇ、それがつい先日だそうですよ。参加した知り合いから聞きましたの。とてつもない魔力をビリビリと感じたって。」

「これで引き続きこの国は安泰だな。」


ここ帝国では妖や鬼の脅威から国と皇帝を守る為、3つの公爵家がそれぞれ得意とする魔術によって守護している。3つとは、火・水・土で藤ヶ谷家は水を司り、成人になると魔力が開花し後継者として決定するらしい。


「でもね、何よりとっても綺麗なお顔立ちなんですって!絵梨花が見初められたらどうしましょう!」

「やだわお母様、でも有り得なくないわよね。私って美人で評判らしいし。」

「お前には片桐殿の息子と縁組みしてあるだろう。」


日野家は実はあまり裕福な貴族ではなく、お金目当てで豪商の片桐家の息子、満雄と婚約しているのだ。


「満雄様ね〜、ちょっと嫉妬深いんだもの。金持ちのくせに平凡だし。」

「絵梨花の姿を見たらどんな貴族男子も惚れるわよ。」


そこで急に養母は私の方を振り向いて嘲るように言った。

「アンタには永遠に縁の無い話ね。町で会ってるって噂の醜い男が相手にはピッタリね。」

「なぜそれを…」

すると絵梨花がそれに答えた。

「アタシが見たのよ〜。結構前だったかな、満雄様と外を散歩してるときに買い出し中のアンタを偶々ね。びっくりしたわよ、あんな気持ち悪いのと笑いながら喋ってんだもん。頭どうかしてるわ。」


華は悔しさで下を向き拳をギュッと握って怒りをやり過ごす。

自分の事は別にいい。とうの昔に諦めているのだから。でも自分の大切な友人のことを嗤われるのは悔しくて堪らない。


そんな彼女に絵梨花は興醒めしたのか夕飯のおかずの一つを華に投げつけた。

「もういいわ、顔見たく無いから早く下がってくれる?」

「………失礼します。」


華は投げられたお皿と散らばったおかずを手早く片付けて部屋を出て行った。




怒りでどうにかなりそうな心を落ち着けるため、庭に面した縁側に出て夜風を思いっきり吸い込んで深呼吸する。


華がいつも買い出し中に町で会っていたのは、幼き日に虐められていたところを助けた事がきっかけで面識があった少年だ。

大原家が没落して日野家の使用人として町に出るようになってから再会したのだ。彼は確かに見た目は良いとは言えない。しかも怪しい呪術を使うと噂されている町の外れにある一家に養われているようで、余計気味悪がられている。

だが華からすれば、令嬢でなくなったにも関わらず、助けた日の事を恩義に感じて人として普通に気遣いながら接してくれる彼は、ただただ優しく誠実な青年として映っていたのだ。


「ほんと、どこ行っちゃったんだろ…」


その呟きを夜空に輝く月が聞き届けていた。



♢♢♢

その知らせは突然やってきた。

「おい!橙子!絵梨花!」

朝からバタバタと廊下を走る当主に、妻と娘の2人は怪訝な顔を向けた。

「そんなに慌てて…どうなさったの?」

「あの藤ケ谷家から結婚の打診がきた!日野家の美しい娘を貰い受けに来ると!!」

「まああ!やったわね絵梨花!」

絵梨花は、目をキラキラさせて口に両手を当てて信じられないと言った様子で喜んでいる。

「やったわ!やっぱり私の噂って結構広まってたのね!これで成金男はおさらばだわ!あー早くお会いしたいわ、私の本当の王子様!」


興奮した声は騒音として隣の部屋の華に聞こえていた。

「今日すぐに来られるそうだ!準備をしなさい。」

その声と共にすぐに華が呼ばれ、絵梨花と橙子によってあーでもない、こーでもないと着物選びと着付けに奔走した。

漸く準備が整い、それと同時に華は屋敷の奥の部屋に入れられた。

「アンタはここに居なさい。呼ぶまで出てくるんじゃありませんよ。」

「はい」




その後、豪華な馬車とともに藤ヶ谷龍一と護衛の方々が到着し、華以外の3人は恭しく挨拶をして龍一を家に招き入れた。

彼は応接の間に着くとすぐに用件を述べた。

「俺の花嫁はどこだ。」

その言葉にキョトンとした3人は、それが冗談だと思ったのだろう、笑いながら返事をした。

「面白いことをおっしゃる。目の前にいるではないですか、ほら絵梨花ご挨拶を…」

「初めまして龍一様、私があなたが望む花嫁ですわ。」

その発言に龍一は酷く冷たい空気を放ち、危うく魔力を放出しそうになる。その恐ろしさに絵梨花も正志も橙子も後ろに仰け反って本能的に距離を取ろうとした。

護衛の一人が龍一に声をかけて何とか魔力による威嚇は収まり、もう一度口を開いた。

「名を呼ぶことをお前に許した覚えはない。出さないなら勝手に探して貰っていく。」

そう言って控えていた護衛たちが屋敷内をくまなく探しはじめる。

その光景に正志はおろおろしていた。

「なっ、なんなんだ」

絵梨花と橙子は震えながら肩を寄せ合って、事が終わるのをじっと待つ。


暫くしてひとりの護衛が声を上げた。

「いらっしゃいました!」

そして護衛と共に現れた華をみて、日野家の3人はどういう事だと口々に言い始めたところを龍一が一蹴した。

「黙れ。俺が欲しかったのは美しいこの娘だ。見た目だけで中身の醜いそれは要らん。」

自分をそれ呼ばわりされた絵梨花は発狂したが、両親はただただ呆然としていた。その隙に龍一に手を引かれて華は家を出て馬車に乗り込んだ。






馬車の中で向かい合って座る2人。

華も混乱していた。とりあえず公爵家の方に反抗するなど出来ないため、言われるがままに着いてきた。

突然部屋を開けられ護衛に連れられ、応接の間にいた麗しき男性を見た瞬間、緊張感が走った。凄まじい魔力と自分とは決して交わる事のない高貴な身分を感じ取ったからだ。

だが目の前の公爵家嫡男、藤ヶ谷龍一と目と目が合い、晒すことも出来ずじっとその瞳を見つめていると、華は驚きの事実に行き当たる。

「…りゅうくん?」

「やっと気づいた。遅いよハナちゃん。」


なんと彼は幼き日にいじめっ子から守り、自分が使用人になってからは町での良き話し相手となったあの青年だった。

だが目の前の彼はあまりにも…町でのりゅうくんとは何もかもが違いすぎる。

理解できなくて困っている華を見て、龍一は説明しはじめた。



「藤ヶ谷家は水を司る一家なのは知ってるよね。鬼が扱うのは主に火だから、我が家は大昔から鬼に関しての戦闘はかなり有利なんだ。だけど鬼もそんな脅威を放って置く訳はなく、昔は跡取りの子どもを鬼に次々と殺されていたんだ。」

「そんな…」

あまりに残酷な話に華の顔は青ざめる。

そんな華の手に自分の手を重ねて、龍一は大丈夫だよと声をかけてまた話し始めた。


「成人するまでは魔力が開花しないし、鬼に敵わないし、ずっと当主にくっついて回る訳にもいかず困ってたところを、呪術に詳しい黒山一家に相談したんだ。するとある傾向が見えてきてね。」

「それはどんな…?」

「鬼が襲うのは見た目がいい子どもだけだったんだ。」

「えっ…」

一瞬戸惑ったが、それが何故か理解できた。魔力の強いものは皆一様に美しい顔立ちなのだ。鬼は美しいものを好むというし、加えて美しい=魔力が強いとなれば、その子を殺せば未来の脅威は無くなるわけだ。


「だからある時代から、藤ヶ谷家では子供が産まれるとすぐに黒山家に行き。呪いによって醜い姿に変えてもらい成人まで過ごすんだ。表向きには遠くの街にいることにしてね。それからは鬼が狙ってくることもなく今に至るという訳さ。」

「龍一様は…ずっとご家族と離れて過ごしていたのですか?私何も知らずに能天気な話しかしてませんでした…」

その言葉に龍一は目尻を下げて笑った。

「やはり貴女は優しい人だ。心配ないよ、基本的に町の外れの呪術一家、黒山家にお世話になってたけど、よく実家にも顔出してたからさ。」

それを聞いて華はホッとした。と同時に緊張感が途切れたのか、瞳からポロポロと涙が溢れ出てきた。


「わっ、わ、ごめんなさい。泣くつもりじゃなくて…止まらない、ごめ…なさ…」

そんな華を龍一は優しく抱き締めた。温かいお互いの体温を感じると、次第に華も落ち着いてきた。そしてそっと龍一の胸に手を押し当てて、もう大丈夫と抱擁を解いた。龍一はちょっと残念そうな表情をした。

「ありがとうございます。あの…私をあの家から出すために行動して下さったんですよね。でも私はこれからどうすれば…」


気づけばずっと敬語を使う華に龍一はお願いした。

「ねえ、今まで通りの話し方でいいよ。というかあれ?状況理解してない?」

「え?」

そう、華は奥の部屋にずっと居て応接の間でのやり取りは聞いておらず、護衛に突然連れられ、龍一が両親と絵梨花に何か言っていたな、くらいの認識で今この馬車に座っているのだ。


龍一ははぁぁと長い溜息をついたあと、姿勢を正して華に向き合った。

「はなちゃん、いや、華。」

真面目な声色で名を呼ばれて、華も背筋をまっすぐ伸ばして龍一を見る。

「俺はもう、ずっと前から…最初に出会った日からずっと華の事が大切なんだ。あの家で虐げられていたこと、町で聞いた時は怒りで狂いそうだった。でも我慢したんだ。今じゃない、今じゃないって。」

目の前の人が真剣に怒ってくれていると感じた華は、なんだか嬉しくなった。自分も彼を侮辱されると我慢ならないが、彼も同じだったのだと。


「漸くこの時がきて、俺はもう1秒も待てなかった。華、俺は華の事が好きだ。大好きだ。だから俺と結婚して欲しい。」


その情熱的で真摯な求婚に、華は全身から喜びが湧き上がるのを感じた。華はこの時、自分もずっと前からこの人の事が好きだったんだと気付いた。


「私も…私もりゅうくんが、龍一様が大好きです。」

そう返事をすると、龍一が顔を近付けてきた。


「ねえ、龍一って呼んで?」

近距離で甘えられて華は顔が真っ赤になった。

「りゅ…りゅういち…」

その直後、華の唇は優しく塞がれたのだった。



ーー終ーー



読んでいただきありがとうございます。

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