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#2【バーテックス】たまたま出会ったチームメイトの正体が……

NECO(ネコは). What's(好きな) your(食べ) favorite(物は) food(なに)?」

Umm(そうだね)……I like(スシ) Sushi() and(ラーメン) Ramen(かな)

Oh()! You too(一緒じゃん)! That's(いい) good(ね~)

「やっぱり良いよォ! スシとラーメンは」


 三人が話し込んでいるところ、第三ラウンドの収縮が終了した。

 残り部隊は七部隊のままだった。周りの様子に変化は無いようだった。


「じゃあそろそろ移動しよォ。ここはもう次のリングから外れてるみたいだ」

「そうだねー。適当に歩いて敵を探そう。サーチアンドストライクの時間だね」

「どこ、いく?」

「端から歩いて探しに行くよォ」


 二人に先導されながら、ネコプライドは走り出した。

 街の中で敵は見つからなかった。

 次のリングの方向へ向かって、建物を調べながら走っていく。完璧に丁寧にクリアリングをするわけではなく、二人は音と周辺の状況から分析判断をしていた。


 例えば建物ならドア見ることだ。

 このゲームはスタート時に全ての建物はドアが閉められている状態になっている。

 丁寧な人はちゃんと一つ一つドアを閉めるのだろうが、全部にそうすることはほとんど無い。

 守りたい建物は戸締りをするだろうが、物資を集めるために入っただけの場所や、次の安全地帯に関係がないところ、そもそも建物が守りにくい弱い構造のものなどは()()()()()()ものだからだ。


 だから浮き上がる違和感がある。

 この建物は荒らされた形跡があるのにこっちの建物はきれいに戸締りをされているじゃないか、とか。この並びの建物を荒らした後洞窟近くの支給品ボックスが荒らされているということは奴らはこのルートをすでに走っているのではないか、とか。まだ漁り切れてない建物が多いのに移動の形跡があるということは降下してすぐ近くの場所で戦闘が起きていてそれを漁夫るために移動に専念したのではないか、とかだ。


 目を凝らせば見える、形跡がそこには存在する。

 アカリとリッカーはそれらをもとに敵の有無を判断していた。


 少し進むと壊れたドアと、デスボックスが転がっていた。ここでファイトが行われていたことがわかった。

 その周辺の建物も荒らされているため、どうやら目的とするルートの延長線上を敵が走っている可能性が出てきたことをアカリは感じていた。


「ここファイトがあったみたいだね」

「そうだねェ。でもボックスの中身がほぼ空っぽだし、これは最初なんじゃないかなァ」

「俺もそう思う。さっきのリングの収縮でイーストの洞窟から来てないなら、このまま真っ直ぐ行けば会えるでしょ」


 二人はドアから入って家を捜索することはなく、登れる高さのベランダがあればそこに登った。


 小さな家は外壁とテラスがあるなら屋根に登る。まるでアスレチックを使う猿のような動きをしていた。


 なぜそんな風に走るのだろう、とネコプライドは疑問に思った。普通に走って行く方が楽じゃないかと。

 走りながら周囲を見渡していると、目の前の建物の中に回復アイテムが落ちているのが見えた。


(あ、フルチャージ見っけ)


 使用すると傷ついたアーマー値が全て回復する『フルチャージ』だ。

 バックの一枠(いちスタック)にフルチャージは二つ入れられる。ネコプライドは合計三個持っており、ちょうどあと一個拾えるところだった。


(ラッキー。ちょうど欲しかったよ〜)

 

 開いたままの扉を通り越して建物の中に入ると部屋の中央にポツンと一つ、フルチャージがあった。



 そして三人の影があった。

 扉の後ろ、カウンターテーブルの影、部屋の隅。

 しゃがんで身を低くして、彼らはじっとりと、ネコプライドを見据えていた。


 何か言葉をかわす暇もなかった。

 むしろ気づいたのは結果の後だったくらいだ。

 バラバラと連続する破裂音が建物内で響くと、一瞬にしてネコプライドのHPはゼロになっていた。


「――――What a fuck!」


 ネコプライドはノックダウンさせられ、逃げようとドアの方へと向かうも、三つの影の中でも一際大きなキャラクターの『トックス』がネコプライドのキャラの首を締めてその身体を持ち上げる。

 一発、二発、三発と、大きな拳を顔面に叩きつけると、脱力した体を地面に叩きつけた。

 ノックダウン体に対して銃撃以外の方法でも確定キルをとることができる。処刑専用モーションを行う『フィニッシャー』だ。


What(どう) happened(した) ?」

Hiding(隠れてた)Oh my god(うそでしょ) sorry(ごめん)…… I dead(死んじゃった). It’s so(こいつら) annoying(ムカ) men(つく)……っ!」


 やってしまった。

 せっかく楽しく出来ていたのに、この人達ともっと楽しみたいと思っていたのに死んでしまった。


 ハイドに対するイラつきと、気づかなかった不甲斐なさ。よく考えてみれば、味方と離れて別の建物を一人で入ってしまったことなど、自分の非にも気づかされる。


 三人で一つの部隊となって、最後まで戦うのがこのゲームの基本だ。

 一人死んでしまうとその分、チームの持つ総合HPと火力が減ってしまうため、どんどん不利になっていく。

 しかも殺してきた相手は三人全員いた。

 アカリ達とも近い建物にいる。

 このまま戦うのは圧倒的に不利だ。

 逃げて順位を伸ばすことが順当だろう。


 ネコプライドは椅子の背もたれに深く体重をかけると、天井を見上げてうなだれる。視聴者に見せるためのパフォーマンスでもあったが、気持ちが萎えてしまったのは事実だった。ゆっくりと、長く、鼻から空気を吸い込んで、口から大きく吐いていく。それでも気持ちは収まらなかった。


 デスクの上に置いていたコーヒーを手に取り、ボーっとディスプレイを眺めることにした。

 キルをされると行動はできなくなるが、味方の視点を観戦することができるからだ。


(このままリングに走って逃げる方がいいね。まだ家の中に三人いるからバナーの回収は難しいし……)


 そうするだろうと、ネコプライドは思っていたのだが二人の考えは違うようだった。


「どうするリッカー? やっちゃう? やっちゃおうよ」

「いいよォー。やっちゃおう! やっちゃおう!」

「ファイティーン!」

「イエーイ! ファイティーン!」


 二人はすぐさまネコプライドのデスボックスがある建物に走って向かっていった。


 まずアカリはグレネードを取り出すと、窓から室内に投げ込んだ。家までまだ距離があったが、スローイングは絶妙な高さと放物線を描き、二人が建物へ到着するのとほぼ同時に一階の中央で爆発した。


「二人当たった。七〇と三〇。一階にいる!」

「オーケイ! じゃあオレは二階から行くよォ」

「じゃあオレは下から行くね」


 突然の爆撃を食らった敵はあたふたと体制を立て直そうとする。削れたアーマーを回復させるためにアイテムを使い始めるのだが、その間も二人の攻撃は止まない。


 一階に到着するとアカリは出入り口からアサルトライフルで射撃を開始する。

 扉は投げ込んだグレネードの爆風によって、壊れて吹き飛んでいる状態だった。回復をちょうど終えたばかりのトックスに攻撃をした。


 敵も撃たれるばかりではない。撃たれたトックスをカバーするように味方二人が射撃するが、それはアカリも想定の範囲だった。すぐに身を引いて被弾を抑える。そうしてアカリにヘイトが集まった一方でダメージを負ったトックスは階段を登って、二階に行き回復をしようと思っていた。

 三対二の数的有利だ。ゆっくり戦えば負けることはない。

 ましてやトックスは敵にのみ有効な毒ガスを散布するガス缶を設置するスキルを持っている。籠城して戦うのが得意なキャラだからだ。


 敗因は、それを予め行っていなかったことだ。


「————よォ! 死ねェ~!」


 二階ではリッカーの操るメックが既に銃を構えていた。

 アーマーを壊されたトックスは一瞬にして、ショットガンの餌食になった。


「トックス倒した(デッド)!」


 そのままリッカーは階段から一階を覗き込むと、味方のダウンに気づいた二人がのぞき返してきていた。

 軽くサブマシンガンを撃ってダメージを与えるが、構うものかと支援系キャラのメディック一人が突っ込んでくる。


 もはやパニックだ。

 見えたから撃つ。撃たれたから撃つ。逃げるから追う。

 そこには作戦も何もない。

 稚拙でぐちゃぐちゃなステップのように、アカリとリッカーに踊らされている。


 対してアカリとリッカーの動きは時計の歯車のようだった。

 ベイトを請け負ったリッカーをカバーするために、アカリは再度出入り口から銃を覗かせると、階段を登って行こうとするメディックの背中をフリーで撃っていく。


「メディック瀕死(ワン)!」

 アーマーも割れ、体力までダメージが通り瀕死の状態のメディックを階段の上で待ち構えていたリッカーが討ち取る。逃げ場がないから走り切ろうと思ったのだろうが、すでに結末は確定していた。


「メディック倒した(デッド)! アカリ! ラスト一階にいるよォ」

「オーケイ!」


 これで二対一。数的有利を取り戻した二人は、なんの合図もなしに同時に残り一人の制圧にかかった。


 リッカーは階段から飛び降り、アカリは室内にスライディングして侵入(エントリー)する。

 残る敵はカウンターテーブルの後ろで待ち構えていたが、リッカーの視点を観戦していたネコプライドからしてみると、錯乱していたようにさえ見えた。


 急に形成が逆転し、独りぼっちにされたところへ二つの銃口が向けられる。

 バラバラと銃を撃つ抵抗も虚しく、サブマシンガンとアサルトライフルが数発づつ音を立てると、敵は完全に沈黙したのだった。


全滅(オールデッド)! ナイス~!」

「ナイスナイス~さっすがリッカー! 今のスイング完璧だったよ」

「ねェ! オレ達完璧なチームだねェ!」


 わずか四〇秒足らずの出来事だった。


「Oh my god……!」


 ネコプライドはただただ驚くのみだった。

 二人の動きはとても攻撃的で、激しく、洗練されていて、そういう機械なのだと思わせる。


Did you() see that()NECO(ネコ). They(やって) cooked(やったぜ)!」


 ちょうどその時、ネコプライドの視聴者の中の何人かがコメントで一つの話題に触れていた。


【これ本物?】

【強すぎ!】

【有名人コラボ始まったか】

【こいつらバンしろ】

【配信やってたから本物だよ】


 そしてネコプライドは最初に感じていたモヤモヤの正体がわかった。


【これアルファリンクスのプロゲーマーのリッカーじゃん】


 リッカーは大会のMVPにも選ばれたことのあるプロゲーマーだったのだ。

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