#1【バーテックス】日本サーバーで英語ペラペラのデュオと友達になってみたwww
ネコプライドは日本語がある程度話せる女だった。
ハワイに住んでおり、家族の営むダイビングショップで働いている。
そこは日本人観光客が多く来ることもあり、幼少のころから接客をしていたことと、ネット配信のアニメを嗜んでいたこともあり、読み書きは拙いが会話できるほどにはなっていた。
配信は主にアメリカ人向けに行っていたため、そのほとんどは英語で会話をしていた。
動画での投稿も行っており、『日本人に英語で話しかけてみたら』という内容のもので、国際交流を楽しむような動画を作っていた。ある時それが突然バズり始めて、YouTubeに投稿した動画のアナリティクスを見てみると日本からの流入が多くみられるようになった。
同時にアメリカ内からも視聴者の流入が見られるようになり、配信者として有名になったのだった。
今日も今日とて、動画のネタ作りをとゲームをやっていた。
『バーテックスエージェント』というバトルロワイヤル系のゲームが最近の流行りであり、サーバーの変更も簡単なため、よく配信の題材として使っていた。
大空を翔る飛行船の中に六〇人が集まった。
三人一組でチームを作り、二〇部隊で争って最後の一部隊になることを目指す。
カジュアルライクなバトルロワイヤルゲームだ。
戦っている時間とそうでない時間のオンオフがあり、視聴者とのコミュニケーションも取れる配信向けのゲームだった。
「Hello Guys?」
いつものようにまずは挨拶からだ。
日本人はシャイな人が多いため反応してくれないこともあるが、ボイスチャットを先に入れると応えてくる可能性が上がることを何度か試して理解していた。
流暢でないながらもコミュニケーションを取ろうとしてくれる人がいれば十分だった。
「Hello? You speak English?」
英語で会話が返ってきた。
コミュニケーションを取ってくれることはわかったので上々だ。
これで楽しくゲームができるだろうとネコプライドの期待は上がっていた。
「おォ? English? I am Korean !」
「And, I am Japanese. It is international」
「Oh guys, Are you duo?」
「Yea. We are friends」
「Let's go~! ヨロシクオネガイシマス」
「よろしくお願いしま~す」
「よろしくゥ~」
なんと二人とも乗ってくるではないか。
貴重なケースでネコプライドは驚いた。
日本人は『Akari』という名前で、韓国人は『ricker₋αL』という名前らしい。
(う~ん? リッカー? どこかで聞いたことあるような……)
おそらく後半のαLと言うのは『アルファリンクス』というゲームのことを指すのだろうと推測していた。
このバーテックスが流行る前からあるシューティング系のゲームの一つだ。
アメリカでも世界大会やプロリーグが開催されており、人気のゲームの一つでもある。
ハイフンの後ろにゲームタイトルの名前をタグ付けして、そこの出身のプレイヤーだというアピールはゲーマー達の中でも特に珍しいことではなかった。
だが引っかかる。どこかで聞いたことのあるような声でもあるような気がしていた。
ひとまず考えることは後にして、目の前のゲームにとりかかろうとする。
マウスを軽く振って手首の緊張を緩めてみた。
アカリとリッカーはそれぞれ日本語でやり取りをしており、ネコプライドに質問をするときなどは英語に切り替えていた。
リッカーは英語の中でわからない単語が出てくると、アカリが日本語で説明を挟んで補助をしていた。
(まぁ、全部なに言ってるかわかるんだけど)
実は話の内容は全部筒抜けなのである。
だが、懸命に英語で話しかけてくれるところに可愛さを感じ、すぐにはネタ晴らしをしないことにしていた。
「ふたりは、どーやってあった?」
ネコプライドはカタコトのフリをした日本語で話しかけてみた。
「えー? バーテックスでたまたまね?」
「運命的な出会いだったねェ」
「そうだね。俺もここまで強くて日本語上手い韓国人は始めてだったからすぐフレンドになったね」
「オレも日本人なのにプレイが強気な人は久しぶりだったから嬉しかったねェ」
「えーと……We met in this VARETX. And, became friends」
アカリは発音が良いが、ところどころ文章の組み立てが稚拙なところがあった。
だが何を伝えたいのかははっきりと話すことができるため、専門的な話しでもない限り特に問題はなかった。
「Wait NECO? Can you speak Japanese?」
「ちょとだけ。ちょとだけ」
「そうなんだー」
「You studied?」
「ちょっとだけ。ちょっとだけ~」
ここでネコプライドは動画の恒例行事、『日本語を教えてもらおう』の会を行うことにした。
今までいろんな日本人から行儀の悪い言葉から食べ物など様々なものを教えてもらった。
直近では女の子から『かわいい』という言葉を教えてもらった。
便利な言葉で、英語では『キュート』が意味としては該当するが、それよりも広い範囲で使われることを知った。心が動かされる瞬間に使ったりできる上に、『かわいい』という単語で喋りかけるだけでも楽しくコミュニケーションができることを実感した。
さぁ今日はどんな言葉を教えてくれるのか、とても楽しみだ。
「Could you teach me? some Japanese?」
「じゃあ――お兄ちゃん大好き、って言ってみてェ?」
「ぶふぅ!? What!?」
「だはははっ! リッカーマジで天才! 声に出して読みたい日本語ナンバーワンかもしれない」
「オレの中ではナンバーワンだよォ! 素晴らしい日本語だ。教科書に乗せよォ」
「NECO Say it お兄ちゃん大好き」
「お、おにいちゃんだいすき……」
「おォーーーー! 最高だ……今日は気持ちよく寝るかも……」
「……What's meanig」
「Like a "Nice to meet you"?」
(堂々とウソ言ってるこの人達!)
あまりにも堂々としたウソをつく不届きもの達。
急いでマイクをミュートにし、笑っているのを隠そうとする。
配信を見ているチャット欄の中には何人か日本語を理解している人もおり、『LOL』とチャットを打っているのがちらほら見えていた。
「ねえみんな! こんなにわかりやすいウソつくなんて悪い子たちだよ! もう、おかしくってしょうがないよ! 私も日本語喋れるって言ったらすごく驚くかな」
『違いない』『早く言って』とチャット欄が盛り上がり始めた。
これは面白い。いい二人に出会えたと思った。
「次の動画はこれにしよう! 英語で話しかけてみたら日本人と韓国人のデュオが話してきた、にしよう」
マップを走っていく内に銃声が近くでなり始める。
今回のマップは『ゲームボックス』、大会などでもよく使われる人気のあるマップだ。
今は東側にある大きな町『イーストシティ』を走っている。
ここは名前付きの要所の中でも大きな場所となっている。物資も多くあるため、複数の部隊が降下してくるのも当たり前のことだった。現にさっきの降下中も三部隊ほどが飛んでいくのが見えたていた。
銃声が聞こえるとなんの合図もなしにアカリとリッカーはイーストシティにピンを打って走り始めていた。
「いっぱい集まってるねェ~」
「楽しそうだね。混ぜてもらおう」
「Let's Go. Let's GO!」
三人は町に乗り込んだ。
一番大きな建物がある。四階建てで一階ずつが広々としている。上下の行き来はジップラインが張られており、掴むと入力方向に移動することができるようになっている。
また、外は鉄骨の骨組みなどがあり、中からの正規の移動だけでなく壁登りをすることもできるため、アクロバティックな戦闘が繰り広げられることで配信者達からも人気のある場所だった。
外からマズルフラッシュと音が聞こえる。
戦闘をしているようだ。
「リッカー三階にいるっぽい」
「オーケイ!」
「ジップ登って行こうか。SWATだ!」
「ハーイ! ハロー!」
二人の移動は早かった。
音の鳴る方に一直線で向かっていく様はまるで犬のようだった。
キャンキャンと声を上げながら、敵陣に突っ込んでいく。
「一人倒した!」
「おォ! ドラッガー갑빠 깼어!」
「九〇! 개피 개피!」
「やった! 部隊全滅!」
「ナーイスリッカー!」
「イエーイ! ナイスナイス~!」
二人はショットガンを使って、部隊を一掃していった。
まるで嵐のようだった。
互いにベイトを繰り返しながら、タイミングを合わせてフォーカスして撃ちこむ。
あまりに一瞬の出来事のため、敵に反撃する暇も与えない。
ネコプライドは何もすることもなく、目の前で敵が壊滅していくのを見るだけだった。
「……マジか」
(この二人、すごく強い……!)
その後もチームは走っていく。
平原を越えて、線路を走って、トンネルを越えて、元居た場所の真逆のところまで走っていく。
部隊は西側の町、『ウェストシティ』までやってきた。
残りは七部隊リングは第三ラウンドの収縮が始まっていた。
三人はリングの中心にある建物の一つを取っていた。
見晴らしが良く、四方の動きが観察できる十分な高さがある。三人は屋内のクリアリングを済ませると屋上に上り、アカリは北側のトンネル方面を、リッカーは東側の坑道の出入り口周りを、ネコプライドは南側にあるイーストシティの建物達を監視していた。
敵がどこからやってくるのかを探すためだ。
「北から俺達走ってきたから、こっち方面はいないと思うんだけどなー」
「来るとしたら南かなァ」
「俺もそう思う。今の時間でもし北から走って来るやつがいたら、どこにいたんだよって話しだよねー」
「街のどこかにいるかもだけど、今から探すのはちょっと面倒だねェ」
「そうだねー。ここ今良いポジションだからねー」
アカリとリッカーは今後の動きについて相談をしていた。
とはいえリングが収縮されるまでは暇だ。
ネコプライドは手元においた飲み物飲みながら、配信のコメント欄でのチャットに返信をしていた。
【チャンピオン取れるぞ】
【勝ったらサブスク三ヶ月買います】
【デバイス何使ってる〜】
など、様々なチャットが流れており、一つ一つ回答をしていたところだった。
少し時間も取れたところで雑談を再開することにした。
「What's your favorite food?」
「Me? or Akari?」
「Ricker and Akari」
「うーん……オレはコンビニのアイスが好きだなァ。日本の」
「こんびにあいす?」
「Yea. Convience store icecreeam」
「あー確かに。日本のコンビニのアイスはおいしいよ~?」
リッカーは楽しそうに話していた。
「めちゃくちゃうまい! 韓国にも日本のアイスは来るけど、知らないもいっぱいだったよォ。初めて来たときにいっぱい買って食べたよ」
「何食べた? 最近」
「うーん……日本語の名前はわからないなぁ。韓国ではモチモチ米粉アイスって名前なんだけどね?」
「もしかしてこれか。カップに二個入ってて、フォークみたいなのがついてるやつ。写真送るね」
「どれどれ……そう! これ! 日本語で何ていうの?」
ゲーム内のボイスチャットだけでなく、二人は他に連絡の手段があるようだった。
ついこの間あったばかりの仲ではないのだろうと大方の察しがついていた。
この話題についてネコプライドはとても興味を持っていた。自分がよく食べるアイスは大きなカップの中をアイスが満たしていて、スプーンですくって、自分で食べる量をとる形式のものばかりだったからだ。
写真共有系のSNSでもたまに日本旅行をしてきた友人の写真から、アイスの種類が豊富だということを聞いていた。どんなものなのかより詳しく知ろうと思った。
「もちもちこめこアイスはおいしい?」
「Sure! It is so good |日本人もオススメする」
「日本のコンビニはおいしいがいっぱいだよ。弁当もあるし、ラーメンも買える」
恐るべし日本のコンビニエンスストア。本国と韓国人が言うのだから間違い無いのだろう。
二人が言うに、コンビニエンストストアには缶ジュースからスナック菓子までありとあらゆるものが揃えられているらしい。
「そういえばカップラーメンもおいしかったよォ。韓国にも売ってるけど、日本の方が種類がいっぱいだった」
「すごいでしょ?」
「やべェよ。日本の食べ物はレベルが高いねェ。どこかの会社が潰れても他の会社もカップラーメンを作ってらから非常食がなくなることがない」
「なんてったて地震大国日本ですから。国民はみんな家にカップラーメンを置いているんだ。だけどカップラーメンの美味しさを知ったら、ランチやディナー、おやつにして食べちゃうんだ」
「非常食のくせにおいしすぎるなんて悪い子だァ」
なんてことだ日本。防災意識の高い国民達は非常食にもこだわりを入れているなんて驚きだ。
しかもコンビニエンスストアは聞くところによるといたるところにあるらしいではないか。恐るべき危機管理能力だ。
「マジか。ヤベェ」
ネコプライドは純粋に驚いた。
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