4-37 強襲
魔道具に加工した指輪を起動し、残った二基の《風翼》を止める。
半数を失いバランスが崩れているのでこれ以上動かしても機体を揺らすだけだ。
あと、作戦の次の段階に移る邪魔にもなる。
「準備はいい?」
「いつでも行けるよ!」
「それじゃ、行くよ!!」
ヒナと同時に、地上に向けて魔術を落とす。
「《天墜彗星群》!!」
「《天落焔槍》!!」
上空およそ二十メートルから落ちながら魔術を放つ。
もちろんこんな何度も見せた攻撃簡単に弾かれて終わりだろう。
だから、魔力は言うほど入れてない。
弾くために魔力を消費させるのか目的だ。
だから弾かれたらすぐ還元して魔力に戻す。
そしてその余力を使って《飛翔氷剣・騎士団》を出しておく。
これができるから魔術の撃ち合いは攻めるほうが有利なんだよな。
ただ、それでも相手との間には埋められない魔力量の差がある。
それに私たちの強みである接近戦も相手が万全なら近づかせてくれないだろう。
人数も不利だし、何より警戒されてるから。
だから、意識を上空に集めた。
「マルク!」
「ああ!」
五人の中で、最も消耗していなかった一人の腹部から、鈍く輝く刃が生える。
そして手に握っていた杖を奪い、決してその体では手の届かないところまで投げる。
完全な奇襲だ。
よし!ここは作戦通りに行った。
それも一番余力を残してる人を刺してくれた。
ちゃんと戦況を見ててくれて助かる。
やっぱりマルクを地上に残して正解だった。
仕掛けの種をは簡単。
最初に攻撃を防いだ壁の内側にマルクを残して飛び上がり、注目を集めたところで《光透迷彩》を使ったマルクが結界沿いに移動し近づいて、上空組が魔力を消耗させ、大きなアクションを起こしたタイミングで奇襲をかける。
その合図がさっき起動した指輪だ。
この指輪はペアになっていて片方が起動するともう片方も起動する通信用の魔道具になっている。
そしてマルクはその合図にしっかり合わせてくれた。
おかげで一人落とせたし、その動揺でこっちも動きやすい。
マルクが一人脱落させたタイミングで消耗した人の近くを狙って着地し、剣を振り抜く。
「っ──《岩石隆起》!」
「くっ──」
流石に反応が早い。
私と相手の間に壁を作って分断された。
けど、まだ動揺してる。
アシストに来たヒナに気づいてない。
壁の向こうで爆発音が響く。
何が起こったかは考えるまでもないだろう。
これで、二人目。人数差は無くなった。
そして次の三人目を獲りに距離を取る雷使いに向かって距離を詰める。
しかし、狙いは雷使いではない。
その奥にいるリーダー格の男──アベルだ。
狙いは間に挟まり二人の射線上に居ることで大技を撃たせないようにすること──
「サリー、下がれ」
「わかった!」
指示が早い。
もう狙いに感づかれた。
まあ魔術師の大きな弱点の一つだし流石に対策はしてるか。
なら、このままアベルを抑える。
欲を言うなら倒したいがあのスキルの数値を視る限り一筋縄では倒せない相手というのは分かりきっている。
だから消耗した残りの二人をマルクとヒナが倒して合流するのを待つ。
「アベル、手伝う」
「いや、いい。サリーはマカラムの方に行け。こいつは──」
遠慮なく近寄る私に視線を向け、一言言い放つ。
「俺が倒す」
その一言で体温が下がったような距離気さえするほど威圧感が籠もっている。
そして例の魔力の壁が体の周りを渦巻き取り囲み、高熱の刃に変換されていく。
「《閃熱刃》」
勘で体を捻り、なんとか躱す。
……反応できなかった。今躱せたのは完全に運だ。
あの魔力の壁で《空間把握》が通らないせいか?
なんにせよそう何度もアレは躱せない。
なら防ぐか発動を止めないと──
「なんだ来ないのか?ならこっちから行かせてもらおう。《閃熱刃》」
結界内に満ちた冷気をかき集め《飛翔氷剣》を挟みこむ。
魔力の量が違う。真正面からやっても勝てない。
だから狙うのは防ぐことじゃない。逸らすこと。
振り下ろされる白炎の刃に対し冷気と氷剣で逸らそうとする──が、失敗した。
到達が遅れたおかげでギリギリ髪の先が焦げるくらいで避けれた。
……まずいな。
相手の熱が強すぎてこっちの氷剣程度じゃ逸らす以前に接触した瞬間溶ける。
けど間に氷を挟めば刃の速度を落とせるのはわかった。
なら、氷を挟んで避け続けるしかない。
攻撃に出れないのはこの際仕方ない。
近づければまだ話は違うかもしれないが少なくとも今は一発食らったらアウトの攻撃を捌くので手一杯だ。
マルク、ヒナ、できるだけ早く合流してくれると助かるかな……。