4-36 墜落
巨大な彗星が墜ちていく。
私の身長、最低でも140センチはある身長の十倍以上ある氷塊が重力に引っ張られ墜ちていく。
普通の人間ならぺしゃんこどころの騒ぎではない超質量だ。
......まあ、普通の人間ならだけど。
今まで使ってきた魔術の威力を見るに多分完全にとまではいかないけど必ず相殺される。
だから、威力を底上げする。
「ヒナ!」
「任せて!《爆発》!《天落焔槍》!」
爆発で氷塊を押し出し加速させ、氷塊とは別に爆撃で攻撃する。
今さら爆撃が直撃するとは思ってないが少しでも成功率が上がるならやるべきだ。
《空間把握》で地上の相手の様子を視る。
見たからといって何かできる訳ではないが奇襲や万が一を防ぐということも含め相手の動きを盗み見る。が──
「おかしい......見えない......」
「え!?何が見えないの!?」
「《空間把握》で下の様子が見えない」
正確には、相手がいるところだけ穴が空いたように見えない。
「なんだろこれ......魔力?」
濃密な魔力に阻まれて私の魔力が通ってない?
だとしたらかなりまずい。
こんな現象初めてだがいいことのようには見えない。
「下ともうちょっと距離をとる。掴まってて」
仕方ないので《空間把握》で氷塊を観測し、エンジンを動かしさらに高度を上げる。
すでに氷塊が落下してる以上私たちにできることはない。
あとは、成り行きを見守るだけだ。
着弾まで三、二──
地上で渦巻いていた濃密で膨大な魔力が膨張し、熱となって放たれる。
その赤や青を超えて白となった熱の刃は、氷塊を切り裂き、焔の槍を弾き、結界に傷がつく。
そして辛うじて躱しはしたもののエンジンを一基破壊された。
「っ……!」
あまりの火力と射程に声が出ない。
《空間把握》で視る限り地上から最低でも三十メートルは離れてる。
それなのに届き、《風翼》を一基破壊された。
氷塊も同様に破壊され、真っ二つだ。
ただ、あの魔力の壁が無くなったから《空間把握》と『ステータス』でこれを撃ったやつの状態を見れる。
「……『ステータス』」
名前:アベル・レリサイズ
HP:521/521 魔力:753/1031
レベル:38 sp:0
職業:学生
状態:──
ステータス:《筋力:Lv16》《体力:Lv18》《技量:Lv34》《速度:Lv12》《知能:Lv42》《魔力:Lv68》
先天属性:火
先天スキル:《火魔術:Lv57》《指揮:Lv20》《予見:Lv14》
後天スキル:《魔術:Lv71》《魔術戦闘:Lv34》《料理:Lv10》《観察眼:Lv21》《水魔術:Lv15》《風魔術:Lv29》《木魔術:Lv24》……
……化け物か?
『祈り』でspを振り分けての能力上昇はレベルが上がるごとに上昇の割合が下がる。
特定の能力を使い続けて鍛えるのもだ。
それを60以上まで鍛えるのはかなり時間がかかる。
私でも60を超えたスキルは先天スキル後天スキル合わせて二つしかない。
それにスキルの数もおかしい。
ぱっと数えただけで三十個は軽く超えてる。
他の四人も視たがこれより少し見劣りするだけで魔力を中心に十分とんでもない数値だ。
あと《指揮》の数値を見るにこのアベルって人がリーダー格で間違いないだろう。
……どうすれば勝てる?
この魔力量を削り切るのは無理だ。
しかし相手が余力を残したまま地上に戻れば魔術で距離を取られ押し切られかねない。
だから制空権を取り、有利な状況で相手を消耗させられるこの作戦を選んだ。
けどすでに防戦に回っている。
本来は相手の魔力をできる限り吐き出させてから近接戦に持ち込むか煙幕でも張って奇襲に持ち込む予定だったが《風翼》を一基破壊され機動力や姿勢制御能力が下がってる。
それに高度も落ちてる。
ならどこかで頃合いを見て降りないと詰めきれない。
なら攻撃と同時に降りるかもう少し消耗させてからじゃないと──
「レイチェルちゃん!やばい!下!」
「下?──ってやばい回避行動!」
地上では既に次の攻撃の準備を終え、例の大砲による散弾攻撃が今にも撃たれようとしていた。
機体の高度が落ちてる以上射程圏外まであがることはできない。
多少揺れるが無理矢理にでも避けるしかない。
機体の左右前後に爆風が走り、揺れる機体に必死にしがみつく。
しかし、今回は避けきれなかった。
《風翼》の残り三基のうち一基が異音を吐きプロペラが壊れた。
四つのうち二つが壊れ、さらに高度が落ちる。
補強はしたがこれでは長く飛んでいられない。
「やばい!これ以上この機体だと自力で飛んでられない!」
「どうするの!?」
機体の心臓は破壊され、魔力もあまり削げなかった。
大技を使った雷使いとこっちの攻撃を防いだ風、地属性使い以外の二人は半分は残っている。
成果としては不十分、作戦から外れかかっている。
しかし、ここまで機体が破壊された以上やるしかない。
「……次の段階に入る!準備して!」