4-35 凶星
「ヒナ、姿勢制御しばらく頼んで良い?」
「え、うん大丈夫だけど……攻撃は多分できないよ?」
「攻撃を食らわなきゃなんでもいいから。ただ《風翼》ちょっと止めるから頑張って浮かしてほしい」
「それ止めるの!?てかさっきから組み立ててるやつと関係ある?」
「そうそう。ちょっと改造したいんだよね。だからちょっと頑張って浮かしてほしい」
「……わかった」
「それじゃ、止めるよ。3、2、1……」
魔力を流すのを止め、プロペラの回転が止まる。
そして同時に下から爆発が起き機体が揺れる。
本来《風翼》で浮かすことしか想定してないから当たり前といえば当たり前だ。
けど止めてしまった以上やるしかない。
なら、さっさと終わらせてしまおう。
プロペラを取り外し、細かく分解し組み立てた磁石を取り付けもう一度組み立てる。
「うっ……」
「レイチェルちゃん!あんまり持たないから早く!」
わかってはいたが滅茶苦茶揺れるし、攻撃が飛んてきてるからさらに揺れる。
さっさと終わらせないと!
迅速に、できる限り手早く《風翼》を改造する。
一つ、二つ、揺れる機体の上で、できる限り早く正確に取り付ける。
できる限り最速で取り付けたが、それを見逃すほど優しい相手ではなかった。
「レイチェルちゃん!上!」
「さっきの雷!?……いや、ちょうどいい!」
「何するの!?」
「このまま受ける!」
「えぇ!?」
「大丈夫!」
完成はしてない。けど、着弾するまでに完成させる!
大急ぎで最後の一つを付け直し、全ての上でエンジンに作り出した金属の紐を括り付け、その端をまとめて凧に括り付け上空に放つ。
前世の知識は意外なところで役に立つ。
モーターの仕組みなんて知らなくても良いと思ってた。
今だってその考えは変わらない。
けど、今だけはあの長くて退屈な義務教育に感謝する。
やることは理屈としては簡単。落ちる雷をそのまま電力に変換して動力源にする。
言葉にすれば簡単だ。前世でも実験した人はいるらしい。
……まあ、感電死する愚か者が後を絶えなかったらしいが。
だから、この世界を生きる者として、この世界なりの対策をする。
木属性は使えるが流石にゴムまでは作れないので別のもので代用する。
純水だ。
不純物の混ざらない純粋な水は電気を通さない。
前世でも発見はされていたがゴムの方がお手軽で実用化は難しいとされた。
しかしこの世界では純水は作り出せるし、動かせる。
代替品として、もとの素材よりも優れている。
理屈としては可能だし、ゴムより使いやすい。
けど流石に純水での絶縁実験の結果までは知らない。
だからぶっつけ本番の賭けだ。
けどこれが成功すれば魔力の消費をかなり減らせる。
まだ戦い始めてからそんなに時間経ってないのにもう防戦一方だ。
なら、賭けでもなんでもやるしかない。
「屈んで!」
「わかった!」
指示を聞き、屈むのと同時に雷が落ちる。
なんとか指示出しも機材の改造も間に合った。
あとは成功するかだが……
それは今無事に思考できているということが証明してくれている。
恐る恐る目を開けると、急上昇する景色が目に飛び込む。
「ヒナ……まだ動かないでね……。ゆっくり深呼吸しながら目を開けて」
「わかった……ってうわっ!?」
驚きはしたが動いてはない。
ちゃんと指示を聞いてくれて助かる。
とりあえず魔力流して動かして滞空しよう。
蓄電池作ったわけじゃないからそのままだと墜ちるからな。
……本来ならこっから攻撃する予定だったんだけど思ったより高く飛び上がりすぎてるな。
普通に見てから弾かれるぞこれ。
……ヒナの魔術だと駄目だな。弾かれる。
私がやるか。
「ヒナ、この高さだと絶対弾かれるから弾かれないやつにする」
「了解!アレ使うんだね!?」
「うん!だからちょっと浮かせてて!」
もう一度ヒナに操縦を任せ、魔術を構築する。
この高さだと雷の攻撃以外届かないから余裕を持って最大火力を放てる。
「『宇宙に浮かぶ星』『災い呼ぶ凶星』」
詠唱も変え、これまでとは比べ物にならないほど、人生で一番大きな水を作り出し、凍らせる。
最初から変わらない最大火力を、全力で撃つ!
「墜ちろ!《天墜彗星》!!」