4-34 対空
私の魔力を冷気に変えて闘技場一杯に流していく。
結界の形がドーム型じゃなくて円柱型で助かったな。
効果は私の魔術の威力の底上げと、魔法陣を必要とする魔術の発動妨害。
魔法陣を構築してる途中で冷気に変換した私の魔力を混ぜて式を乱したり、陣に魔力を流す時に冷気を挟み込んで発動自体を妨害する。
理屈としては単純だが、複雑な式を描く腕の良い魔術師ほど効果的な魔術だ。
それに当たり前だが二人の妨害にならないよう調整もできる。
この妨害により、事実上魔法陣を必要としない先天属性以外を使えなくなる。
相手の手札を大幅に減らした上、制空権を取ってる。
相手の先天属性はわからないが……
火なら相殺できる。
水なら凍らせる。
地ならまず届かない。
一番危ないのは風だがまだ魔力に余裕があるのでいくらでも対処できる。
それに大抵の魔術は上に向かって撃つことを想定されてない。
だから重力に負けて威力が大幅に弱まる。
相手に上空に対する回答がないならこのまま爆撃して魔力を減らしてから有利な接近戦に持ち込める。
この有利を崩させないため《空間把握》を使い相手の動向を視る。
「『─────』『───────』」
聞こえはしない。だが視える。
口の動きからして確実に何か唱えてる。
この状況で詠唱付きの魔術を放つなら、こっちに攻撃を当てる算段があるはず。
止めなきゃいけない!
「ヒナ!もう一回撃って!」
「わかった!《天落焔槍》!」
もう一度焔の槍による爆撃を落とす。
予想通り相手は防御に魔力を注ぎ、岩の壁を作り爆撃を防いだ。
防がれはしたけど多少は効いたはず。
それに落ちてくるかもわからない攻撃を警戒しながらなら大技もそうそう打てないはず。
このまま攻め続けて──
さらに爆撃を落とそうとしたその瞬間、快晴だった空に暗雲が立ち込める。
「空が──やばい!」
「何!?」
「ヒナは屈んでそのまま攻撃!こっちは私が防ぐ!」
「え?わ、わかった!《天落焔槍》!」
まずい。この現象は今一番まずい属性の魔術が来る!
しかも一番火力が出る状況だ!
結界の形状も屋根のない円柱型で遮るものがない!
間に合え──
「《金属作成──」
鉄塊を作り出し上空に打ち上げる。
そして同時に高度を落とし移動する。
その瞬間、轟雷が落ちる。
上下衝撃が走り揺らぐ機体をなんとか保つ。
「あっぶな……」
「れ、レイチェルちゃん……?何があったの?」
「雷だよ。やばい、相手に雷が先天属性の人が居たんだ。今一番相性が悪い属性だよ」
「え……それ大丈夫なの?」
「なんと防げたけどあんまり連発されるとまずいかも……それよりさっきの爆発は?」
「多分《天落焔槍》が落ちきる前に爆発したんだと思う。魔術で邪魔されてかも。多分風で飛ばされた」
「わかった」
たしかに最初の攻撃の時風属性の攻撃があった。多分それと同じ類いの攻撃だろう。
今反撃を食らうのが一番まずい。
次の手を予測するため《空間把握》で相手を視る。
視えたのは、詠唱する人、こちらを見上げる人、そして大きな筒。
これはまさか大砲?
「ヒナ!右方向に飛ばして!」
「わかった!《灼竜翼》!」
二つの爆発音が響き、機体が揺れる。
やっぱり大砲だった。しかも散弾。
砲身に石を詰めて風属性魔術で飛ばしてるんだろう。
こっちはエンジンが故障するだけで落ちる。
その機構を見破られたか。
それに厄介なことに打ち上げたということは落ちてくる。
こっちが上にいるというのに上からの攻撃を警戒しなくちゃいけなくなった。
さすが上位魔術師を目指す特別学級。判断が早い。
エンジントラブル、前世の飛行機でも起きる事故をどう対処するかと言うと……
「ヒナ、上!爆破して石を吹き飛ばして!」
「了解!《爆発》!」
落ちる石全てを吹き飛ばすなんともゴリ押しな対処だ。
しかしヒナの無尽蔵の魔力量ならそれが可能になる。
対処は辛うじてできたが……すぐに次が来るし、防戦一方だと飛んだ意味がない。
次の手を考えなきゃ──
ゴトッと音を立て上から何かが落ちてくる。
それは落雷を受け止めた鉄塊だった。
質量が質量なだけにさっきのヒナの爆破で飛ばしきれなかったんだろう。
どうせならこれも落として攻撃に使おうと近寄った瞬間体が引っ張られる。
いや、正確には至るところに仕込んだ剣や魔法陣を刻んだ指輪などが引っ張られている。
これは……磁石?
なるほど、さっきの雷で磁石に変化したのか。
……これは使えるな。