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4-29 限界

 満身創痍の体で斬りかかる。

 対する相手はその手に持った石棒で器用に防ぎ、カウンターを仕掛けてくる。


 互いに勝ちに向かって武器を振るうが、両者ともに満身創痍ということもあってその技の数々はうまく決まらず、端的に言えば泥仕合と言って差し支えない戦いになっていた。


 駄目だな、やっぱり地力の差が出てる。

 身体強化も切れかかってるしこのまま長引くと負ける。


 なら──


「『剣気を纏う氷晶達よ』!『誓いに応え』『その勇名を轟かせろ』!」


 身体強化を切り、《空間把握(グラスプ)》も最低限まで、普段の十分の一まで薄め、効果範囲を絞る。

 砕け散った《飛翔氷剣(フロスト・ソル)》の欠片も還元し、魔力に変換できるもの全てを魔力に変換していく。

 そして、それでも足りない魔力は詠唱を代償にして捻出する。


 今ある手札をコストに使い発動させる、最後の切り札(ジョーカー)


「──《飛翔氷剣・騎士団フロスト・ソル・レギオン》」


 誰も、一本しか操れないとは言ってない。

 作り出すのは四本の氷剣。


 この互いに疲労し、満身創痍な状況で頼るのは、数という原始的な暴力。


 もちろん、数を増やした分それぞれの動きは粗雑になる。

 《空間把握(グラスプ)》も薄めたこの状況なら尚更雑な動きになるだろう。


 けど、今はそれで十分。

 万全の状態なら簡単に対応されただろうが、今の相手は満身創痍で武器も得意の得物じゃない。


 《ステータス》で常に確認し続けてるので魔術による反撃もないとわかる。


 今この状況なら、勝てる。


「は──あっ!!」


 満身創痍の体を動かし、距離を詰める。


 まず四本の剣のうち二本を動かし斬りかからせる。

 動きも雑でスピードも出てない。

 だから簡単に避けられる。


 けどそれは想定内。

 避けた動きに追従するように手に握った剣を振り、残りの二本のうち一本を私の動きに合わせるように動かす。


 しかしこれも決まらず握った剣は石棒で弾かれ、氷剣は躱される。


 体勢を崩しはしたもののかすり傷をつけることすらできず、隙を晒す。


 もちろんその隙を突くため崩れた体勢から無理矢理にでも攻撃を仕掛けてくる──が、それを最初に動かした二本と残した一本の氷剣で弾き、反撃(カウンター)に合わせて反撃(カウンター)を叩き込む。


 本来なら避けようがない攻撃、それを叩き込む。

 しかし、聞こえるのはガキンと硬い物体どおしがぶつかる音。


 薄めたとはいえ《空間把握(グラスプ)》があるから分かる。

 ギリギリのところで攻撃に使った棒を引き戻し、ぶつけて軌道を変えたのだ。

 けどもとから無理な体勢での攻撃に反撃を食らったのだ。さすがに無傷とはいかず腕の足に血が滲んでいる。


 不利な状況を変えるためか距離を取ろうとしたところにさらに氷剣を飛ばし追撃する。

 が、これもかすり傷程度で済まされる。


 さっきからどれもまともに当たらない。

 押しているのは間違いないがこのままだとどこかで押し返される。

 《飛翔氷剣・騎士団フロスト・ソル・レギオン》の操作で精一杯で足の傷の止血が解けてきてる。

 この足だと攻撃に行けない。


 今のやり取りを見れば手数が減れば当たらなくなるなんてわかりきったことだ。

 惰性でこのまま続ければなけなしの魔力を使って作った氷剣が破壊されるリスクも上がる。


 けどまだ相手は捌くので手一杯。

 このまま続ければ体力を使わせられるだろう。


 ならまだこのまま続ける。


 あと一回だけ確実に攻撃を当てる仕込みがある。

 体力を使い切ったタイミングで捨て身でも何でも良い。一撃入れればそれで勝ちだ。


 だから今は氷剣の操作に全力を注ぐ。


「ぐっ──うぅ……」


 痛みが頭の中で響き、鼻血が流れ出す。

 本来万全の《空間把握(グラスプ)》を使うことを前提に開発したんだ。

 情報の処理が間に合ってないし、多分許容上限(キャパシティ)を超えてる。


 まだ、まだ止めるな。あと少しだけ動かし続ければいい。

 多少動きが雑でもいい。最悪切っ先を向けておくだけでも牽制にはなる。


 だから、まだ──


「う、ぐぅっ……!」


 軋む体にムチを打ち、血が流る足を引きずって前に進む。


 頭痛の止まらない頭を無理矢理働かせ相手の体力を削ぎ落とす。


 あと、あとちょっとだけ──


「さん、にぃ、いち……い、まぁっ!!」


 氷剣を破壊しようと全力で棒を振り上げたその瞬間、全ての剣を還元し、魔力に戻す。

 そしてそのなけなしの魔力を少しだけ残し、身体強化をかけ、懐に飛び込む。



 文字通り捨て身の攻撃に全てを賭ける。

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