4-28 劣勢
「《地震》!」
煙幕がかかるのと同時に魔術による広範囲攻撃を仕掛けてくる。
これは恐らく煙幕を晴らすための魔術を構築する時間稼ぎだろう。
けど、この一瞬、《空間把握》を使える私だけが動ける、私に有利なフィールドが成立する。
その一瞬があれば十分に仕掛けられる。
居場所を特定されないよう強化した脚力で走り回りながら仕掛けの種を蒔いていく。
まずペンダントに偽装して持ちはんこでいた《圧縮》を刻み込んだ剣を投げる。
あれは術式を解除したときのもとのサイズに戻る力だけで十分に刺さる。
私が直接持つと警戒されるから弾き飛ばされないよう凍らせ固定し、一種の罠として運用する。
そして破壊された剣の代わりに仕込んでいた他の剣を取り出しもとのサイズに戻す。
これで二つ目。
そして三つ目、壊された《飛翔氷剣》の欠片を動かし足を狙う。
何重にも魔法陣を刻んだおかげで壊されてもある程度動かせる。
不意打ちには持って来いの能力だ。
さらに四つ目、追加で《飛翔氷剣》を作る。
居場所がバレるため詠唱はできない。
そのため性能はガタ落ち、切れ味も落ちてる。
けど、この土壇場なら最低限刺せるだけの性能があれば問題ない。
「《暴風》!!」
さっきの《地震》と同様に広範囲に暴風が吹き荒れ、煙幕が晴れる。
そして、私の居場所がバレる。
本当はまだ色々仕込みたかったが仕方ない。
これで決める!
他の仕込みを隠すように、意識を私に集めるように派手に、大きく踏み込む。
「食らえっ!!」
「っ!?」
声を張り上げ、折れたはずの剣を手に間合いに踏み込む。
失ったはずの武器を手に目の前にいるんだ。
無視はできない!
視界が私に向き、他のものが入らなくなったこのタイミング!
投げた剣の術式を解除し、刃を伸ばす。
そして離れた位置に置いておいた《飛翔氷剣》を動かす。
死角から二方向の攻撃、避けられるわけない。
「はぁっ!!」
渾身の突きを繰り出し、私を含め三方向からの攻撃を放つ。
「ぐっ──がぁっ!!」
「い"っ──!?」
咆哮に近い声とともに、焼けるような痛みが走る。
痛みでショートしかけた思考をなんとか保ち、痛みのもとに目を向ける。
そこには、地面から突き出た槍のような岩に貫かれた足が映る。
この魔術は──
「ふっ、これもお返しだな」
試合の序盤に使った《凍結氷牙》……?
真似られた!?
規模は小さくなってるとはいえ、このタイミングでのこれは致命的だ。
「なんっ──の、まだぁっ!」
さっきスキルで冷静にされた余韻が残っていたのか咄嗟に足を引き抜き、突きを繰り出す。
冷静に対応できはしたがこのワンテンポのズレは作戦の失敗を意味していた。
術式解除による高速の突きと《飛翔氷剣》とはタイミングがずれ、それぞれ対応される。
三つ同時に仕掛けることに意味があったのにこれでは意味がない。
一つ一つ対応され、完全に避けられはせず掠りはしたもののどれも問題にならないレベルの傷だ。
追撃に備え後に飛び、血属性魔術と《治癒》によって傷口をふさぎ、最低限動けるようにはしたが万全とは程遠い。
地面の水気は煙幕に使ったからフィールドの有利もない。
罠にした剣は折られ、二本目の《飛翔氷剣》も砕かれた。
魔力も体力も底が見えてきている。
劣勢、その言葉がこれほど似合う状況はないだろう。
幸い一本目の《飛翔氷剣》の破片による攻撃は撃っていない。
二本目の破片は地面に残っているのでまだ戦う手札は残ってはいるがそれだけでは火力が足りない。
「はぁ……はぁ……今のは……危なかった……」
「不得意な……魔術に頼るなんて……らしくない……」
「ああ……けど、役には立った……」
互いに肩で息をしながら言葉を交わす。
体力回復の時間稼ぎにも見えるし、単に会話を楽しんでいるようにも見える。
いずれにせよ真意は定かではない。
そして、考える暇もなく、状況は変化していく。
「さあ……やろうか……」
剣先を向け他に選択肢はないことを示してくる。
渋々剣を持ち、立ち上がる。
体力も魔力も、用意した仕込みも失い、万全とは程遠い状態で、相手の得意な接近戦に持ち込まれる。
けど、それでもまだ勝ちの目はある。
相手だって疲労してるし体力も魔力も底が見えてる。
武器も得意の得物じゃないだろう。
まだ、劣勢でも勝つ確率はゼロじゃない。
少しでも可能性があるならそれに向かって全力で走る。
そういうことをこの五年で学んできたんだ。
それに、まだ切り札は残ってる。
この最後の切り札で、決めきる!!