4-27 切り札
「はぁっ!」
金属どうしがぶつかる重厚な音が響く。
そしてその音が響くのと同時に、右手に握った剣の重量が無くなる。
その無茶な振り方、使い方に耐えきれず折れたのだ。
しかしこれは想定内。《飛翔氷剣》も手応えはあったし相手の剣も折れたなら問題はない。
それを確認しようと目線を向けた瞬間、鉄塊が眼前に迫る。
限界まで強化された身体能力、この五年で磨き上げた《空間把握》から流れてくる情報は、その凶器は健在だということ。
そしてそれは容赦なく、私に振るわれそうとしてること。
──スキル《沈静化》が発動します──
「ぐっ──!?」
咄嗟に折れた剣と《飛翔氷剣》を無理矢理挟み込みなんとか防ぎ、吹っ飛ばされる。
またあの謎のスキルを発動させてしまった。
正体、目的不明というだけに気味が悪い。
けれど、今回ばかりは助けられた。
恐怖を引き換えに冷静さを流し込まれたことでギリギリ対応できた。
おかげで吹っ飛ばされてできた擦り傷だけで済んだ。
……直撃してたら腕くらい飛んでたかもな。
まあ無事で済んだんだから今はそれでいいか。
相手は今氷の拘束を解いてるところだ。
この時間を使ってスキルで冷静にされた頭で状況を整理していく。
まず私の剣は折れてる。
さっき防ぐのに使ったから《飛翔氷剣》も折れてる。氷片が散らばってるのも確認できる。
次に相手の剣の状態。
あれだけ全力で振ったんだ、並大抵の剣なら折れる。
なにか仕掛けがあっても無傷とは行かないはず。
《空間把握》で剣の様子を視ると予想通り罅が入っていた。
それに剣に魔力を流して強度を底上げしてるのもわかった。
これが仕掛けの種か。
一回見てるはずなのに予測できなかった。
多分その魔術に対して抵抗力を得た剣で《飛翔氷剣》も弾いたんだろう。
まだまた詰めが甘いな。
とりあえず状況整理は済んだ。
まだ相手が動けないうちに次の手を打つ。
打ち上げた水球を魔力を流し増幅させ、無数にに分割し、凍らせ膨張させる。
最初から変わらない私の最大火力を、目的に合わせて改造していく。
「『それは天から落ちる涙』『星空に塗り替える流星』!」
新たな詠唱を詠い、切り札を放つ。
「《天墜彗星群》!」
避けられないほどの広範囲攻撃、その上で数え切れないほどの質量攻撃。
大丈夫、直撃しても死なないくらいには調整してある。
あとは巻き込まれないよう下がるだけ。
「ぐっ──!!」
無数の氷塊が重力に従い落下し、狙い通りベインめがけて落ちる──が、鈍い音が響き、氷塊の行き先は地面へ逸らされる。
「嘘だろ──?」
罅の入った剣でいなしてる……?
けど、本来は目視するのが精一杯で、半透明なものをいなし逸らし続けるなんて土台無理な話だ。
ちゃんと逸らせるわけないし、そんな無理な使い方すればすぐに折れる。
予想通りバキッと音を立て限界を迎えた剣は折れる。
しかし、それでも氷片が直撃することはなかった。
「棒術……?」
武器が限界を迎え入れたというのに、その男の手にはまだ武器が握られていた。
魔術で作り出した等身大の石棒。
即興で作りは雑だがその場しのぎには十分な得物だ。
これで押しきれないなら、まだ切り札を切ってやる。
最初は楽をしたいがために作った魔術がこんなところで役に立つとは思わなかった。
実際、試合前に実験するまでこんな効果になってるとは思いもしなかった。
けど、役に立つなら付け焼き刃だろうと何でも使う。
新たな名前をつけて、地面に向かってそれを放つ。
「《蒸発》」
「な──!?」
『性質の変化』によって『蒸発させること』に特化し、変質した魔術を、濡れた地面に向かって放つ。
水を大量に吸った地面から水気が抜け、大量の水蒸気による煙幕に包まれる。
煙幕の中からの不意打ちで狙うのは腹部か動けなくなる腱。
勝利条件を満たす為の手段はまだ残ってる。
それに多少は被弾して動きは鈍ってる。
ここで絶対に決める!