4-22 感想戦
「疲れた……」
控室の椅子に全体重を預け、二度と立つものかと思いながら目を瞑る。
駄目だこれ、今更これくらいのイベント緊張しないだろとか調子乗ってたけどやばい。
実際会場に入ってみると想像の十倍くらい観客がいるように見える。
「そうか?圧勝だったじゃないか」
「いや、そっちじゃなくて──マルクにはわからないかな」
「俺にはわからない?」
「子ども頃からお家の関係で色々連れ回されてるマルクからしたら多分見られるのは慣れてるでしょ」
「なるほど、たしかにな。もう慣れてるから俺にはわからないかも」
マルクも腑に落ちるところがあるようで納得してくれたらしい。
実際貴族間の交渉やパーティで見られないなんてことないだろうし顔を売るためにも話しかけに行く側だろうな。
「お疲れ様。私何にもできなかったからほんとごめんね」
「いや、ヒナはまだ微調整が甘いし怪我させたくなかったからあれで良かったよ。それに頑張ってほしいところもあるし」
「わかった。にしても凄かったね!あの技何?抜刀術とかは前に指南書とかで読んだことあるけど同じ技?」
話の内容が慰労から感想戦へと切り替わる。
「抜刀術は東の国に伝わる曲刀の反りを利用して勢いよく鞘から振り抜く技だろ?レイが使ってるのは直剣だから厳密には違うんじゃないか?」
「うん。あれは勢いよく剣を抜いてるだけ。ちょっと工夫はしてるけど」
「工夫?」
「左手で鞘を後ろに引いて、上半身を捻りながら抜いて少しでも早く剣が鞘から出るようにしてるんだよ」
「それであんな鞘に仕舞ったままの状態から普通に構えたときと同じくらいの速さで振れるのか」
「そうなんだ。あ、あとさ、なんであそこで相手は魔術撃たなかったの?躱されたっていっても軽いやつならすぐ撃てるでしょ?」
「ヒナ……それだから制御甘いって言われるんだよ」
「え、え?」
質問に答えるついでに欠点を指摘する。
「あのまま撃って、もし私が躱したら避けた魔術はどこに飛んでいく?」
「え?そのまま後ろに飛んでいくんじゃ──あ」
「そうだね、そのまま流れ弾が味方に当たるね。なまじ狙ったときに当てられるようになったから目的地を通り過ぎたあとのことは忘れてたんじゃない?ちゃんと躱されたときのことも考えないと。とくにヒナのは火力が高いから防御の選択肢を取られることが少ないでしょ?だから避けられることのほうが多いと思うからちゃんと考えないと」
「……はい」
本番で巻き込まれでもしたらほんと死にかねないのでしっかり注意する。
いやほんとマジで危ないから。
「ま、マルクも凄かったよね!」
「そうか?まあ、ありがとう」
逃げたな。ま、いいか。
私もマルクの戦いは話しときたかったし。
「私もマルクの方見てたけど私と違って真正面から制圧してたよね」
「よく戦いながらこっち見れたな」
「まあ、《空間把握》あるし。マルクも使ってるでしょ?」
「まあな。けどレイほど上手くない。効果範囲を絞ってようやく使えるくらいだ。まあそれのおかげで色々楽になってるが」
「うん。振り下ろしてきた剣を弾いて武器盗り、そこから相手の剣で魔術をそのまま真っ二つ、ほんと器用だよね」
「まああれは相手の剣がよかった。そうじゃなかったらあんな上手く切れなかったと思う」
......切る前提なんだ。
やっぱ筋力とか技術はマルクの方が上で、小手先の技とか手札の数は私の方が上なのかな。
「この後どうする?ほかの他の試合見に行くか?」
「見に行きたいかな。ご飯も買いたいし」
「じゃあ行こう。荷物は置いてていいんでしょ?」
「確かそのはずだ」
「じゃあ早めに行こうか。昨日結構混んでたし早めになんか買っとこう」
「わかった」
「だな」
とりあえず小道具は準備し直すのめんどくさいので目立つ剣だけ置いて部屋からでる。
昼食の確保のため一歩踏み出した──はずなのだが、前に進めない。
「おい!出てきたぞ!」
「ぜひ取材させてください!」
「一言!一言でいいので!」
「ぜひ!ぜひうちのギルドに来てくれ!」
カメラらしきものを持った大人たちに囲まれすぐに身動きがとれなくなる。
「え、えっと......」
まずいどうしたらいいのか分からない。
こういうのって無闇に答えない方がいいのか?
......どうしたらいいんだ?
「この人たちは私マルク・ヴァルスの大切な仲間です。あまり無理な取材は遠慮してもらおうか」
マルクが取材陣を止めてくれる。
わざわざヴァルス家ということを強調した辺りそれ以上やると家が黙ってないと脅してるのか。
さすが、慣れてるな。