4-21 戦いの始まり
「さあ満を持してマルク・ヴァルス、レイチェル、ヒナ、戦魔術師クラスの三人の登場だ!どんな試合になるのか楽しみですね!」
「そうですね!二日目の最初を彩る試合ですからね、楽しみです!」
まだ結界を起動してないせいで実況が聞こえる。
せっかく覚悟決めてきたんだからこんなのでコンディション崩されたくない。
さっさと始めよう。
ルール違反にならないよう《空間把握》を解く。
会場に入り、数歩踏み出す。
相手と視線を交わし、会場の中心から対称に位置取り、開始の合図を待つ。
──目指すのは手の内を隠したまま、血の一滴も流さない完全試合。
「それでは!試合、始め!」
開始の合図と同時に結界が張られる──のを確認してから再度《空間把握》を展開する。
そしてコンマ数秒のズレもなく事前に決めた作戦の通り私とマルクが前に出る。
「《暴風弾》!」
「《岩石弾》!」
私達が接近するのと同時に相手四人のうち二人から魔術での攻撃がとんでくる。
方や不可視の凶弾、方や質量を伴った殺意。
どちらも当たれば無傷では済まないだろう。
当たれば、だが。
その魔術の起こりを《空間把握》で発射される前に察知した私は既に回避行動をとっており、最小限の動きで全ての弾を躱す。
もちろんマルクも全て躱し、遅れることなく接近を続ける。その姿を私の《空間把握》が捉えていた。
次に残り魔術を放った二人が下がり、腰の剣に手をかけた残り二人が前に出て迎撃の姿勢に入る。
前衛後衛のバランスも良いし動きも悪くない。
基本に忠実だ。
しかし、それでは遅い。私達の攻撃に間に合わない。
相手の抜剣に合わせ相手より早くこっちも抜剣する。
狙うのは抜き出しの少しだけ鞘から出た剣の根元の側面。
「居合抜剣『三日月』」
容赦なく、剣を振り抜く。
その刃は五年の月日に裏付けられた技術によって狙い通り、剣は脆い側面に直撃する。
相手の武器はその衝撃に耐えきれず、音を立てて折れる。
「は、はぁ!?」
「下がって!」
「あ、ああ!」
この数秒の一連の時間で後ろに下がった後衛が大技を構築してそれを放つ。
味方を巻き込まないように声をかけ、それにすぐ反応し邪魔にならないよう下がる。
味方の時間稼ぎを無駄にしないようにした上で、できる限りの大技を構築する。
連携がしっかり取れてるな。
「《大嵐砲》!」
けど、残念ながらそれも視えてる。
軽く身を捻り、圧縮された風の凶刃を簡単に躱す。
そして大技を撃った直後の隙をつき、息が感じられるほどまで接近し、その切っ先を首に向け、暗に動くなと脅迫する。
「嘘……」
刃を向けられた喉から独白がこぼれ落ちる。
私はその言葉になにか返すこともなく、沈黙を突き通す。
「レイ、こっちも終わった」
「わかった」
首に向けていた刃を鞘に仕舞う。
こっちの戦いが終わったのと同時にマルクの戦いも終わっていた。
マルクの戦いも視ていたが私と同じように剣術のみで制圧していた。
実質四対二で手札を見せず、血を流すことなく圧勝。
完全試合と言って差し支えないだろう。
その証明と言わんばかりに結界が解かれ、やかましい実況の声が会場に響く。
「な、なんと!完全勝利!圧倒的なまでの実力を押し付けての完全勝利だ!魔術を使わず、純粋な剣技と体捌きだけで四人を制圧してみせた!それも互いに血を流すことなく戦闘不能という状況を作り出した!なんとう技術でしょうか!?」
「凄かったですね!強敵と当たるまで手札を隠すつもりでしょうか。真偽は定かではありませんが何にせよ戦魔術師クラスの完勝です!」
そのハイテンションな解説の口から私たちの勝ちと、宣言される。
そしてその宣言と同時にとんでもない数の視線がこっちに向く。
試合中もきっとこうだったんだろうな。
胃が痛い……
今すぐにでも控室に引っ込みたいが流石にそれでは態度が悪い。
せめて握手くらいしていかないと。
「ありがとうございました」
短く一言づつ、軽く握手を相手選手全員と交わす。
……早く戻ろう。