1-7 自主練その2
ルークに呼ばれダイニングへと向かう。
テーブルの上に並べられた夕食は簡素ではあるが彩りがあり、食欲を唆らせる香りを立たせている。
席につき、手を合わせる。
準備ができたのを確認し、ローラが合図をする。
「それじゃあ……」
「「「いただきます」」」
テーブルの上を見渡し、メニューを改めて確認する。
パン、牛肉の燻製、シチュー、漬物。
昼のような豪華さは無いものの、保存技術が余り発展していないこの世界では豪華な方の食事だ。
とりあえず冷めないうちにシチューから手を付ける。
うん…今日初めてローラ以外の人が作った料理を食べて思ったが、やっぱりローラは料理が上手い。
店とは数段劣る料理器具で作った物でも店のものと遜色ない味だ。
というかハンバーグとか出てきたけど保存技術とかどうなってるんだろう。
なんか冷凍できる魔道具でも開発されたのだろうか。
もしそんな物が開発されたのならぜひ欲しいものだ。
まあそれはひとまず置いといて、今はローラの料理を堪能しよう。
「お母さん、シチューおかわり」
「はいはい、ちょっと待っててね」
本当は自分で注ぎに行きたいところだがまだ子どもということで火を扱うキッチンには入れてもらえない。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
いや〜、ほんとに美味い。こうも美味いと箸──はないか。スプーンとフォークが止まらない。
「ごちそうさまでした」
あまりにも美味すぎてあっという間に完食してしまった。
前世にこんな料理が上手い人が近くにいたら絶対好き嫌いとかしなかっただろうな。ピーマンとかゴーヤとか克服するの大分苦労したし。
さて、舌鼓を打つのもいいがまだ魔術関連で試したいことがたくさんある。少しでも時間を有効活用しなければ
私は部屋に戻り本を開く。
魔術の発動自体はできたし、詠唱も方針は決まったので次は魔法陣について調べたい。
おそらく術ごとに形が変わる魔法陣の中にもある程度規則性はあると思うのだ。
それが分かればもっと柔軟に、状況に適した魔術を使うことができる。
まあ、自力で陣を組み立てられればの話だが。
だからこれからする事は二つ、陣の構築の共通性を探す、そしてそれを応用して自力で陣を構築する練習をする。
この二つを目的として本に目を通す。
本を読み始め十分程したところで構築に関する記述を見つけた。
端的に言うと魔法陣は数式のような物らしく、2つにしたいなら✕2、大きくしたいなら+大きくしたい分の魔力、といったような式を円状にした物が魔法陣らしい。
なら応用に関しては書き出せば終わり…と思ったのだがこれがそううまくいかない。
というより魔法陣に使う字が違うのだ。
だから新しく文法を学ぶところからなのだ。
とりあえず書き足しができるか確認のために本をほぼ丸パクリして陣を組み立ててみる。
「『防げ』」
自己流の詠唱をし、陣を描く。
確認なので確実に発動させられるよう指で描く。
今回魔法壁を2枚出すための文を描き足す。
「《魔法壁》」
発動……したけど2枚別々に出てきた。
くっつけて出すには結合させるための文を描き足す必要があるのか?
それに一枚で出したときより薄い。
魔力が2枚に分散されたのか?
だとしたらもっと魔力を使うよう陣を組まなきゃいけなかったか?
う〜ん、まだまだ改善の余地アリ、だな。
あ、そうだ。これが消失しないうちに還元を試すか。
構築の手順の逆をして魔力に戻すって話だったが…描いた順を遡って魔力を吸収していけばいいのか?
てか一回魔法陣に使った魔力ってもう一回動かせるのか?
魔法陣に手をかざし、魔力を動かそうと試みる。
お?意外と動かせるぞ、ただ動かした瞬間2枚あった魔法壁が2つとも消えてしまった。
とりあえず動かせた魔力を体内に戻せるか試す。
…結構難しいな。ある程度指向性は持たせられるが動かした瞬間容器から出た水のように勝手に動いてしまう。
それに早く吸収しないと霧散して消えてしまう。
最終的に吸収できたのは半分ほどで残りは魔法壁を作るのに使った分もあるだろうが上手く吸収できず霧散してしまった。
陣の構築も還元も改善の余地アリだな。
ただこれからやることは決まった。
詠唱の短縮、
指を使わずクオリティを保ったまま陣を構築する練習、陣を目的に合わせ自力で構築する練習、
還元の練習。
この4つをひたすら反復練習だ。
方針が決まったところでノックの音が部屋に響く。
「レイチェル、入ってもいい?」
「いいよ」
「図書館で絵本を何冊か借りてきたの。だから読み聞かせしようと思って」
…どうやら今日の自主練は終了のようだ。