4-14 準備の積み重ね
「ふぅ〜」
「お疲れ様」
あのあと残りの四本にも魔法陣を刻み終え、鞘に入れてカバンに仕舞った。
小さくできると不意打ち以外でもこういう時便利だな。
「にしても凄いね!どういう仕組なの?」
「う〜んとね、ざっくり言うと剣の形に合わせてぴったり空間を指定してその空間を圧縮してるんだよ」
「一ミリのズレもなくか?かなり繊細な術式だな」
「うん。そうじゃないと剣以外も巻き込んじゃうから危ないんだよね。そこら辺の石とかに刻んで何回失敗したか分からないよ」
「え!?怪我とかしてないよね!?」
「さすがに離れてから試したから大丈夫だよ」
「というか俺は魔術には詳しくないがよ、魔術ってのはそんな万能なもんなのかよ?今までいくつか『聖遺物』を見たことがあるがどれも火を出す風を出すってかんじでこんなもんは初めて見た。魔道具もだ。『魔石刻印』した『人工聖遺物』とかなのか?」
「いや、これは魔道具に分類されると思います。『聖遺物』は『聖遺物』単体で色々できますがこっちは所有者が魔力を流さないと効果を発揮しません。それに調節を間違えると必要以上に小さくなったり急にもとの大きさに戻ったりする可能性もあります」
「不便だな」
「はい、なのでほとんど私たち専用の武器です」
「そうなのか。じゃあ手入れは魔法陣に触らなきゃ他の剣と同じでいいのか?」
「はい、多分それで大丈夫です」
「わかった。なら魔闘大会が終わったら持って来い。お前らの剣とまとめて手入れする」
「わかりました。ありがとうございます」
次の手入れの予定を決め、やることは終わったので荷物をまとめ工房を出る──予定だったが呼び止められる。
「あ、ちょっと待て。見てて思いついたんだが良いもんがあった、待ってけ」
「何ですか、これ?」
道具の山の中から投げ渡されたものはネックレスや指輪などアクセサリーばかりだ。
「前に武器を卸しに来たやつが置いていったもんだ。何でも魔道具に加工する素体として作られたらしい」
「ありがとうございます、いくらですか?」
「金は取らねぇよ。ゴミ溜めで腐ってたもんを押し付けただけだ。それに、剣の分で取るしな」
「剣の方はいくらですか?研ぎまで含めて五本分なので結構かかるんじゃないですか?」
「研ぎまで含めて金一、銀五十だ」
「あれ?結構安いですね」
「まあもとが何も切れねぇナマクラばっかだったからな。むしろ研いだだけで引き取ってくれるんだからこっちとしても助かるし安値で当たり前だ」
売れ残りの割引サービスみたいなものか。
まあ私としても安く済むならありがたい限りだ。
「お願いします」
「ちょうどだな、毎度あり」
「ありがとうございました」
支払いを終え店から出る。
店の中が薄暗かったせいか太陽の光が眩しい。
「このあとはどうする?」
「学園に戻ろうか。時間ももう四時過ぎてるし」
「だな。戻るのも時間かかるし帰るか」
学園に向けて歩き出す。
湯上がりの温かい感覚を残したままベッドに体を投げ出す。
「はぁ〜疲れた〜」
「今日は歩き詰めだったからな」
寝る前の雑談のついでに魔闘大会に向けての計画を固めていく。
「魔闘大会に向けて色々準備しなきゃな〜」
「だね〜。何からする?」
「団体戦だから二体一とか逆に一対二の戦い方も練習しなきゃだし、魔道具の加工もやらなきゃ。あとベインとか上位魔術師クラスの対策もしなきゃだし」
「やることでいっぱいだな」
「しかも魔力が無きゃ何も出来ないからできることが限られるんだよね」
「だよね〜、戦いの鍛錬も魔道具づくりも魔力が無きゃ何もできないもんね」
「だったらたくさん魔力を使えるようにするためにも早く寝て体を休めるとするか」
「そうだね、おやすみ」
「おやすみ〜」
寝る前に一言づつ交わし、眠りにつく。
息抜きが終わり本格的に忙しくなっていく──のだが、あんなに忙しかったのに正直あまり覚えてない。
夢の中のように凝縮された時間が流れていったような気分だ。
疲労に加え常に魔力を使い続けたせいかいつも全力でやって死にそうになってた記憶がやたらと多い。
しかし積み上げてきたものはちゃんとある。
魔道具は作り、作戦はきっちり固め、危険人物はピンポイントでマークした。
頭をひねり、実践を繰り返し、何度も失敗した。
そんな苦しくもあれば楽しくもあった一ヶ月は終わり、 フラフラで死にかけの体調で魔闘大会初日、開会式が始まる。