4-13 秘策
「ごちそうさまでした」
「お腹いっぱい〜!」
「そりゃ、あれだけ食べればな」
学園の食堂で昼食を摂り終え、食器を片付ける。
そのついての雑談の途中で話を切り出す。
「午後の予定なんだけとさ、別に二人はついてこなくてもいいよ?」
「え、なんで?」
「いや、完全に私個人の用事だからさ」
「いや、魔闘大会に必要な剣を買いに行くんだろ?だったら俺たちにも関係あるし荷物持ちくらいするぞ?あの武器屋結構遠いだろ」
「いやまあ手伝ってくれるなら助かるけどなんかやりたいことあるならそっち優先して──」
「無いな」
「うん。暇だからついて行くんだよ?」
「そういえばそうだったね……」
「じゃあ午後はレイについていくから」
「わかった。じゃあ結構遠いしそろそろ行こうか」
作戦に必要な材料を買うために武器屋へ足を進める。
「ふぅ〜、到着!やっぱり遠いね」
「だな。手入れで何回も来てるが今でも迷いそうになる」
「うん、結構街の中心から離れてるからね。曲がり角とか多くて道覚えるの大変だった」
本当は常時展開してる《空間把握》でずるしてるだけなんだけどね。
「さて、そろそろ入ろうか」
いつまでも店の前で駄弁ってては進まないので扉を開け店の中に入る。
「いらっしゃい……ってお前らか」
「はい、いつもお世話になってます」
店に入ってすぐに大量の武具が目に入る。
メンテナンスで来るたびに商品はチェックしてるがまた品揃えが変わったな。
「それで今日は何のようだ?手入れはついこの前やっただろ」
「今回は手入れじゃなくて新しい剣を買いたいんですよ」
「剣?今使ってるのでいいだろ」
「まあ本当はそうなんですけどね……今度の魔闘大会の規則で勝利条件に武器破壊があるんですよ。なので確実に壊しに来るってわかってるとこに持っていきたくないんです」
「剣なんて使ってなんぼだがな。まあ愛着あるのはわかるがちゃんと手入れもしてあるしそうそう折れたりしないぞ?」
「まあ剣どうしのぶつかり合いならそうなんですけど今回は魔術もありなので。それに万が一折れたら審判の判断次第で負けにされかねないので何本か持ち込みたいんですよね。あと今考えてる作戦で何本か剣がいるので」
「は〜ん、なら何本か見繕って──」
「いや、これでいいです」
近くのコーナーから剣を掴む。
そのコーナーは中古品、駆け出しが打った物、曰く付きなど玉石混交といえば聞こえは良いがほとんどがナマクラのゴミ溜めだ。
「いや、全然切れないだろそれ」
「うん、さすがにこれは止めたほうが良いと思うよ?」
「いや、今回はこの剣で戦うわけじゃないしこれくらいでいいよ。他の剣は高いし」
ヒナとマルクの静止を振り切りこのナマクラがいい理由を説明する。
「まあそれが良いって言うなら止めはしないが……それじゃ切れないだろ、ちょっと研いでやる欲しいもん持って来い」
「ありがとうございます。あとよければ少し工房を使わせてもらっていいですか?」
「は?お前鍛冶はできねぇだろ」
「ちょっと広い場所が必要だったので」
「何をしたいかは知らねぇけどまあ場所を貸すぐらいは構わん、使え」
「ありがとうございます」
許可は取れたので五本ほど見繕って持って行く。
「手伝う」
「私も〜」
「ありがとう」
ヒナとマルクに何本か渡し、運び込むのを手伝ってもらう。
三人で工房に入るとすでに準備を終えた店主が待っていた。
「ほら、寄越せ」
「お願いします」
剣を鞘ごと渡し研いでもらう。
様々な砥石を使い剣を生まれ変わらせるその豪快でもあり繊細でもある手際はもはや芸術的でもあった。
そんな芸術に見惚れてるうちにあっという間に五本全てが生まれ変わった。
「ほら、終わったぞ。それでなんかやりたいんだろ?壊さなきゃいいから自由に使え」
「ありがとうございます」
工房を譲り受け、私のターンが始まる。
手始めに鉄を打つであろう金床に抜き身で剣を置き、カバンから彫刻刀を取り出す。
金属でも削れる優秀な彫刻刀だ。
その彫刻刀の刃を剣の柄に狙いを定め、魔法陣を刻んでいく。
刻み込む属性は、空間。
本来武器に刻んだところで十分に効果を発揮しないだろう属性を剣に記憶させる。
幸いこれまでの課外の経験によってそこまで時間を掛けず刻み終える。
「とりあえず一本完成かな」
「何を刻印したんだ?」
「空間魔術の《空間圧縮》だね」
「《空間圧縮》がいるの?」
「うん、計算が正しければちゃんと機能するから見てて」
柄に刻み込んだ魔法陣に魔力を流す。
刻み込まれた圧縮の術式は計算通りに剣という空間を正しく圧縮する。
「わっ!?剣が小さくなっちゃった」
「凄いな……これ戻せるのか?」
「うん」
魔力を止めるともとのサイズに戻る。
よし、これならどこにでも仕込めるな。
いつでもどこでも持ち運べる暗器の完成だ。