4-8 研究者
「え~っと、ここで合ってるっぽいね」
「今度はちゃんと間に合ったね」
今度は会場が近いということもあってか余裕を持って到着できた。
その余裕を使って会場の様子を視ていく。
どこを見ても分かりやすく実験器具で溢れている。
前世でも見たバーナーのような魔道具、三角フラスコやビーカー、試験管、紙の束、光る謎の石、果ては実験動物と思われるモルモットらしき動物がケージに飼育されている。
誰がどう見ても実験室と答える風貌だ。
しかし何の実験をしているのか予想がつかない。
設備を視る限り魔術を作っているのか、薬を作っているのか、道具を作っているのか推測がつかない。
実験器具に統一性がなさすぎる。
......よく見たら区分けされてるような気がする。
推測するならあの紙の束は魔術関連の研究、バーナーやフラスコは薬剤関係?
実験動物は何するにしても使いそうだしあの光る謎の石に関してはまず何なのかすら分からない。
あれかこれかと想像を膨らまさせてるうちに教師が入ってきて授業を始め、指示を出す。
「じゃあ始めます。形式はいつも通り、質問や特定の素材が欲しい場合は私に申し出てください。あと見学生も質問などあったら私や生徒に聞いていいですよ」
教師の指示により各々が作業を始める。
というか質問受け付けてるのか。研究内容って他言無用なイメージあったけど聞いて良いのか?
う〜ん、結構集中してるみたいだし聞きづらいな。
いや、聞き出さないことには始まらないし何も分からない。
せめてどんな研究をしてる人がいるのかくらいは知っときたいし聞きに行こう。
手始めに一番近くで紙に書き込みまくっているメガネを掛けた優男風の人から行ってみよう。
「あ、あの、すいません」
「ん、はい、なんですか?」
「これは今何を研究してるんですか?」
「これは今氷属性の魔術で食料保存に向いた冷凍用の魔術を開発しています。将来的には魔道具にしたいですね」
「食料の冷凍保存ですか……魔道具にするというのはどうするんですか?」
「術式を刻んだ物にこれを繋げて動力にします」
男は正体不明の発光する石を見せてくれる。
しかしこれを使うと言われても私はこれがなんなのかすら知らない。
「この石は何ですか?」
「ああそうか、見たことないんですね。これは魔石と呼ばれるものです。迷宮に生息する魔物が死ぬと落とすもので、魔力がこもっているので魔力を知覚できない人や魔術を使えない人でも魔道具を介して擬似的に魔術を使えるようになります。あと、魔力を流す人が近くにいなくても魔石が動力源になるので自動で動かせます」
「これが魔石……」
話は聞いたことあるが実物を見たのは初めてだ。
「触ってみます?」
「いいんですか?」
「はい。魔力を引き出さなければただの光る石ですので。どうぞ」
「ありがとうございます」
男から魔力を手渡される。
触ってようやく分かったがこの石の中にはかなり魔力がこもっている。私やヒナの魔力総量より多い。
使い方を間違えれば兵器にもなるというのに外見はただの石そのものとは……もしうっかり一般人が触って事故でも起こしたら……
……うん、考えないようにしよう。
「ありがとうございました」
「触ってみてわかったと思いますがこれはかなり危険な物です。かなり上質なものなので含まれてる魔力量が多いというのもありますが魔石というものは総じて危険なものです。なので魔石を用いた魔道具は必ず安全装置となる術式を組み込まないといけないんです」
「ですよね。危なすぎます」
「はい、なので僕でも先生の監督下でなければ触ることもできません。魔石が高価な理由もこれてす。もちろん採れる量自体が少ないのもありますが国が管理し、それを買える資格を持つ人が少なく、その上でその資格を持つ人はかなりお金持ちが多いので国との間で法外な値段での取引が行われてます」
「それってボッタクリじゃ……」
「はい、ぶっちゃけるとそうです。でも魔石を買うのはそんな値段気にしないくらい溜め込んでる人たちなので誰も指摘しないのが現状です。ちなみに迷宮で直接採集したものでも国に届け出を出さないと所持できません。けどその場合魔石の購入自体にかかる費用はゼロなので買えない人は迷宮に直接行くか、知り合いの冒険者から安値で取引して貰うというのが一般的ですね」
「そうなんですね……」
魔石って話には聞いてたけどほんと高価なんだな……
となるとそんな物を仕入れられるこの学校の学費とかって……
──うん、考えないようにしよう。あと冒険者になったら父さんたちにたくさん仕送りしよう。
手紙でのやり取りでも困ってる様子は無かったし大丈夫だと信じよう。
というか、信じたい……
「あっと、話しすぎましたね」
「いえ、初めて聞いたのでとても為になりました」
「だったらよかったです」
「はい。──改めて、今日はありがとうございました」
「いえいえ、頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
礼を言い次の人に質問しに行く。
なんせまだ一人目だ。聞きたいことはまだ山ほどあるからな。