4-7 新しいコンテンツその1
「え〜と……あ、あった」
「どこだ?」
「ここ」
「ん?ああこれか」
『複合魔術』や『魔術開発』の課外が始まるまで時間があるので情報を少しでも得るため三人で正門のトーナメント表を確認しに来た。
「うわぁ……数多いね」
「そうだね、え〜っと……私達の学年で大体二百人くらいいるから四十から六十組くらいあるのかな?」
「多いな……まあ成績に加算されるしほぼ全員出るし、仕方ないか。それで上位魔術師クラスは……ああ、確かに真逆にあるな。これなら互いに勝ち進んでいけばあたるのは決勝になるだろうな」
「一番注目集めるだろうしちゃんと対策しないとね」
「だな」
「あと上位魔術師クラスの他にも……あ、いた。てかここだと結構早めにあたるね……」
「誰探してるの……ってベインか……私あの人苦手……」
「作戦通りにいくと戦うのは私かマルクなんだけどこの人相手だと私たちでも負ける可能性あるからヒナにも手伝ってほしいんだよね」
私やマルクははっきり言ってかなり強い。この五年で剣術、魔術のどちらにおいても私たちとマルクは常に上位に名前を連ねる実力を身につけた。
接近戦でも遠距離戦でも引けを取る相手はほとんどいないだろう。
しかし、あくまでほとんどだ。私たちでも負ける可能性がある相手はいる。
その可能性を持っているうちの一人がこのベインという男だ。
所属は普通の魔術師クラス。しかしこと近接戦においては私やマルクを上回るレベルだ。
今まで剣術の課外授業で何度か手合わせする機会があったのでその実力は理解している。
結果は魔術でバフを掛けて、その上で五分五分。
魔術なしの戦いなら十回やって十回負けるだろう。
そして魔術学園に在籍しているだけあって魔術も使える。
息の根を止めなければ何でもありという今回のルールならどんな技や初見殺しが飛んでくるか分からない。
文句無しで要注意人物の一人だ。
「ベインさん対策どうしよっかな……」
「ヒナと一緒に二体一に持っていくしかないんじゃないか?」
「う〜ん……まあベインさん三人で組んでるからできないことは無いかな」
「じゃあ私がレイチェルちゃんかマルクが戦ってるところに混ざって戦えばいい?」
「そうだね。これも練習しなくちゃね」
「だな」
危険人物に対して対策を話し合っていく──がそう長くそんな時間は続かなかった。
「あ、そろそろ移動しないと間に合わないかも」
「もうそんな時間か」
「うん。見たいとこは大体見たし行こうか」
新しい課外授業の見学に参加するため正門を離れ、授業の会場になっている別棟へ向かう。
「はぁ……なんとか間に合ったね……」
「危なかったね……」
「だな……」
時間に余裕を持って移動したはずなのにどうしてこうなってしまったのか。
理由は単純、道に迷った。
なにせ今まで用事もなかったので来たことのない建物のだったので会場にたどり着くまでに時間がかかってしまった。
しかし都合よく案内してくれる人なんていなかったのであちこち走り回り、息を切らしながらなんとか開始前に滑り込んだ。
「あ、始まった」
「だな、静かにしよう」
「うん」
授業の邪魔にならないよう喋るのを止め、授業の見学に集中する。
授業開始から五分が経過した。
しかし、そのたった五分でも十分なほど感じられた。
レベルが違う。
今までの授業とは比べ物にならないほどの情報量と授業のスピード、教師の魔術に対する理解度にも差があるのかもしれない。
それを受ける生徒も今までとは表情も熱量も違う。
居眠りなんて当然一人もおらず、とてつもなく濃い情報量の授業を生徒それぞれが噛み砕いて理解しているのが分かる。
今すぐにでもここに混ざりたい。自分の魔術に対する理解度を深めたい。
そして、強くなりたい。
将来冒険者として活動するためもあるが魔闘大会も近づいている。
確実に勝てるくらい、イレギュラーなんて真正面から踏み倒せるくらいの強さが今は欲しい。
そのためにも、授業の内容に食らいついていく。
「……すごかったね」
「ああ……」
「うん……」
授業が終わり、生徒が各々退室していくなか、短く言葉を交わし、会話が止まる。
多分、互いに授業の空気感が抜けてない。
私だって未だに頭が授業内容を理解するためにフル回転している。
しかしこのまま居座ると確実に邪魔になる。
一旦意識を現実に向け、移動を促す。
「……とりあえず、邪魔になりそうだから出ようか」
「ああ、そうだな」
「ヒナ、行くよ」
「うん」
少しでも授業の内容を身につけるため頭を働かせながら、次の見学先、『魔術開発』の授業会場へ向かう。