4-2 立ち上がり、前に向かう
「ごちそうさまでした」
午前中の授業を終え、昼食を食べ終わる。
時間の流れは意外と早く、あっという間に一日の半分が経過した。
そしてもう朝のようなナイーブな感情はなく、二人とともに学園生活に勤しんでいた。
まあ、朝はなんか疲れてたんだろうな。
「そういえば二人はどこの課外を受けるんだ?」
「あ、考えてなかった」
「風と火の授業!」
しまった、全然考えてない。
というより残りは氷、空間、刻印魔術を受けてないがどれもある程度内容が予想できるのでどれでも良いと言うのが本音だ。
それに聞いた話によると残りの3つは出席のノルマがなく、最後のテストさえ合格できればいいので最悪行かないという選択肢さえある。
内容も最初の方だし多分基礎中の基礎からだから知ってることばっかり話されてもな……。
剣術も魔術基礎もすでに出席して剣術はノルマ達成してるし行かなきゃいけないのは魔術基礎くらいしかないんだよな。
なんかどこにも行かない選択肢が現実味帯びてきたな。
とりあえず残り3つに顔出して知ってる内容だったら違うとこ行こ。
「とりあえず氷でと空間と刻印魔術の授業見に行ってみようかな。マルクは?」
「俺は魔術基礎と地属性魔術の授業に行こうと思ってる。刻印魔術の授業は昨日行ったからな」
「そっか、じゃあ今日は全員バラバラだね」
「え〜」
「まあ、仕方ないな。あ、そろそろ時間だから出発する」
「ヒナ、私たちも行こうか」
「は〜い」
会話を終え、それぞれが目的地に向かって歩き出した。
「はぁ……まさかあそこまで知ってることしかやらないとは……」
午後三時に差し掛かったところで授業を受けるのをやめて図書室に来た。
内容も授業の方針も大方予想通りだった。
まあ先月の見学のときから情報収集してたし多分まだしばらくは知ってるとこばっかりかもな。
面白くはないかもだけど顔は出さないといけないしな……知らないとこの授業入るの待つしかないか。
諦めに似た感情を抱きながら本棚の本に目を通していく。
魔術学園ということもあってかさすがの蔵書量で、たった一ヶ月では全体の一割どころか1%も目を通せてないだろう。
まあ学術書が多いので読むのに時間がかかるのもあるかもしれないが。
まあなんにせよこの知識を好きに読んでいいのだから嬉しい限りだ。
とりあえず借りてた本は返したのでまた新しい本を探そう。
それに、調べたいこともある。
昨日のヒナとの戦いの最中に起こったことだ。
ヒナが《緋炎剣》を発動したときのことだ。
動きを止められたから良かったものの、あの時『ステータス』による表示だとヒナの魔力はゼロだった。
そう、完璧に底をついて魔術なんて使いようもない状態だったのだ。
前に聞いた『代償』、それに詠唱や杖の補助、心当たりが無いことはないがどれもリソースゼロから魔術を発動できるようなものじゃないはずだ。
となると、私が知らないということはあの制限のかかった本棚の中にある情報が関係しているのか?
いやもちろん私が知らない手段がある可能性はゼロじゃない。
しかし魔術というのは理論と魔術式に基づき誤差の無い結果を生み出し続ける一種の機械を魔力で作るようなものだ。
その根底の理論を覆せる手段をこの五年魔術に打ち込んだ時間の中で全く知らないということがあるか?
少なくとも手段、影も形も聞いたことがない。
「はぁ……」
ため息をついて思考をリセットする。
まあ、今考えたってどうしようもないだろうな。
とりあえず調べはするがあまり入れ込まない方が良いかな。
とりあえず今は基礎から固め直したいから魔術の構築に関する本とか欲しいな……。
違う属性に手出して手札増やすのもありか?
ならヒナに教えられるように風とかが良いかな……火は今までと属性が真逆すぎて使える気がしない。
あと氷属性と相乗効果ありそうな属性とかないかな……。
とりあえず参考になりそうな火属性と風属性の本借りていくか。
……なんか本当に教師じみたこと始まったな。
まあ、いいか。
「すいません、これ貸してください」
「はいはい、貸出ね……はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
本を借り、まだ誰も戻ってきてないだろう部屋へ帰宅する。
「ただいま〜」
午後六時半、部屋で本を読んでいるとヒナとマルクが戻ってきた。
「あ、おかえり」
「レイチェル、戻ってたのか」
「うん。知ってるとこしか授業しなかったから図書室行って戻ってきた」
「そ、そうか」
「まあ、お疲れ。あと、ヒナ用に本借りてきたからまた夜に一緒に読もう」
「え!?ありがとう!どれ!?」
「これ……だけど読むのは夜、先にご飯食べに行こ」
「は〜い」
今にも飛びつきそうなヒナを抑え、食堂に向かう。