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4-1 朝、暗がりに立って

 朝の眠たい空気、人気のない静寂に包まれた部屋で目を覚ます。

 昨日の出来事が嘘のようにいたっていつも通り、私が一番に目を覚ます。


「ん~......」


 上体を起こし軽く伸びをする。

 全身に血を巡らせ、肺いっぱいに空気を吸い込む。


 何てことのない普通の朝だが、今ここに生きているという、第二の人生を生きているという実感を得られてなんだかうれしい。


 この異世界生活も、最初こそ戸惑ったものの、今では慣れたし楽しい。

 なにより、前世のような窮屈で息苦しい生き方じゃなくなった。


 前世にはなかった物があって、前世に居なかった友達ができて、何もかも、この世界の全部が新鮮で堪らない。


 けど、裏を返せばここに俺の知るものは何もないのかもしれない。


 この魔術も、文明だって俺の知るものとはかけ離れてる。

 本当はここはゲームの世界で、全部作り物で、接してきた人間はAIなんじゃないかと、そう疑ったことがないと言えば嘘になる。

『ステータス』なんてあまりにもゲームじみている。

 こんな世界につれてこられた意味も理由も分からないし、誰のかも知らない体に入れられた。


 今まで触れてきたものが、楽しく感じた全てが、これは偽りの人生だと言わんばかりに主張する。


 けど、今さら帰れたところで両親は俺を俺と気づかないだろう。

 それに帰る手段だって分からない。

 両親だって本当の親とは言えない。

 今さら帰れたところできっと俺に居場所はないだろうな。


 ああ、きっと俺はここで一生──


   ──スキル《沈静化》が発動します──


「あ......」


 いつぶりかも覚えてないほど、存在すら忘れかけるほど久しぶりに発動させしまった。


 さっきまで私の心にこびりついて離れなかった孤独や不安を引き換えに頭の中が凪のように静まり返る。


 くそっ、忘れてた。


「はぁ......」


 どうも今日は頭が回りすぎるらしい。


 ──気持ち悪い。

 この謎のスキルもきっと誰かに植え付けられたんだろう。前世でこんな物は無かった。

 いやそもそも──


「──ふぅ……」


 駄目だな。

 どうも本当にどうでもいいことに思考が回る。

 この冷静にされすぎた頭じゃ一周回って冷静になれない。


「……顔でも洗ってこよ」

















「あ、おはよう」

「おはよう」


 暗い考えを吹き飛ばすため念入りに顔を洗い、部屋に戻るとマルクが身支度をしていた。


 ちなみにヒナはまだ爆睡だ。

 今はこの付き物が取れたかのような無邪気な表情が羨ましい。


「じゃあ、顔洗ってくる」

「うん」


 マルクが入れ替わりで顔を洗いに行く。

 また気を使わせるのは申し訳ないのでこの時間で手早く着替える。


 寝間着を畳みタンスにしまい、制服を取り出し身につける。

 そして自家製の手鏡と櫛を取り出しボサボサの髪を梳かしていく。


 そしてその途中、私の表情が目に入る。


 ……なんて暗い顔だろう。


 せっかく吹き飛ばしたくらい考えがまた頭にこびりついて剥がれなくなりそうになる。


 気持ち悪い。


 ──いや、駄目だろう。

 私の顔が暗かろうとなんだろうと時間は進む、世界は回る。


 それに今寝てる少女を見ろ、私が頼れと言ったんだ。私がこんな心配させるような顔でどうする。


 そうだ、きっと偽物なんかじゃない。友達に迷惑掛けるな、自分で言ったことは守れ、目的を見失うな。


 この世界でやりたいことがあるんだろ!


 パシンと乾いた音がなり、両の頬にヒリヒリと痛みが走る。

 そして友達と一緒に買いに行った髪ゴムで後ろ髪をまとめる。


「……よし」


 へこたれるな、前を向け。

 そう自分に、喝を入れる。

 それにいい大人が子供の前でメソメソするなんて情けない。


 もうあのくらい考えはない。

 いつもの自分に戻れたはずだ。


 もう、きっと大丈夫だ。


 そう自信を持つ。


「ん……」

「あ、ヒナ、おはよう」

「おはよう……ふぁ〜あ」


 珍しくヒナが自分で起きた。


 うるさかったか?


「……今何時?」

「今?え〜っと、六時半だよ。珍しいね。自分で起きるの」

「うん……ちょっと頑張ろうと思って。レイチェルちゃんにばっかり頼ってられないからね」

「あ……」


 自分が守らなきゃいけないと思っていた人は、自分に、頼らずとも大丈夫なように努力していた。


 ──負けてられないな。


「すごいね……私も頑張らなきゃ」

「……?ありがとう?」



 弱い自分に喝を入れ、今日もまた一歩踏み出していく。

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