3-20 子供のような
「あ、そういえば」
夕食のため食堂へ向かっている途中、伝えなきゃいけなかったことがあるのを思い出す。
「ヒナ、今日のことは先生には言わないでね」
「え?なんで?」
「先生の居ないところで魔術撃ち合ったとか怒られそうじゃん」
「そうだね、分かった!誰にも言わない!」
正直今日やったことは色々急ぎすぎて改めて見直すと──いや、普通に考えて色々穴があった。
その大きな穴の一つがヒナ本人だ。
マルクは家が貴族ということもあり常識や思慮がしっかりしてるがヒナはまだ純真無垢な子供そのものだ。この一ヶ月、行動を共にしてその危なっかしさは体感済みだ。
というより、好奇心が強すぎる。気になったら実行せずにはいられない、子供特有の好奇心や興味が強い。
それこそ過去の精神的外傷を押しつぶして行動に出るくらいには。
昨日の《温風》とか分かりやすく好奇心のほうが勝ってた。
自分に染み付いた過去の精神的外傷をその場の一瞬の好奇心が上回る、そんな子供なのだ。
まあだからこそその好奇心を受け止められる大人が必要だと思って色々やったのだ。
子供なんて遊んでなんぼだからな。
「あれ?皆さん今日は早いですね」
「あ、先生、こんばんわ」
「はい、こんばんわ。皆さん今日はどうしたんですか?」
「なんか皆お腹空いちゃったんだよね」
「うん!ちょっとレイチェルちゃんと──」
「一緒に剣術の課外行ったからだよね!?」
「え、あ、う、うん」
「あ、ああ、確かに一緒に行くって言ってたな」
「……?まあお腹が減ってるなら早く行きましょうか」
危な……ほんと怖いからやめてくれよ……先に釘刺したじゃん……。
マルクが合せてくれて良かった、ほんと気が利く。
というか世渡りが上手いとかそんな感じだな。
本当に助かる。この調子で頼みたい。
こうして食べながら胃壁が荒れるというなんとも奇妙な夕食が始まる。
疲れた……。
胃が……痛い……。
「ヒナ……?先生には言わないでって言ったよね……?」
「ご、ごめん」
「ああ、ほんと危なかった」
「マルク……ありがとう……」
「ああ……大変だったな……」
結局子供らしいといえばらしいのか、事あるごとに口を滑らせかけそのフォローで私のマルクの胃がやられた。
なんのために釘を刺したのか分からない。
疲れ果てた私とマルクはベッドに身を投げ出す。
体に力を入れる必要が無くなったからかより思考が回りだす。
これからしばらくはこの調子かもな……いや、しばらくで済むか?ヒナが今日のことを忘れるか?忘れなかったらずっとこの調子かもしれない。
いや、さすがにどっかで学んで欲しい。
……学んでくれるよな?
というか今日は課外行ってないんだよな……。
本当は刻印魔術か氷魔術の授業に出たかったけど……まあ仕方ない。
それにちょっとくらい休んだところでこの学園のシステム的になんとかは出来るだろう。
前までこのシステムには結構反対だったんだけど助けられる形になったな。
「ねえレイチェルちゃん、これ教えて欲しいんだけど」
「ん?どれ?」
「これなんだけど……」
ベッドで考え事に耽っていたらヒナから質問が投げかけられる。
早速いつでも頼っていいという約束を活用してきた。
質問の題材の魔術は《火炎暴爆》、たしかヒナが最後に詠唱付きで使った魔術だ。
読んだ感じ構築としては"火を起こす"、"火力を上げる"、"風を起こす"、"それを指向性を持たせて放つ"、これらの構築に加え、魔法陣そのものに"火力に耐えられる強度をつける"術式でコーティングする術式が組み込まれている。
さらに火力を上げようとするなら強度を補正する術式のコーティングを強めたり複数同じ術式を書き込んで火の量を増やしたりとかできるかな?
「それでどこがわからないの?」
「う〜ん、分からないっていうよりはさ、昼にレイチェルちゃんが雑に作ったから魔力がすぐ無くなったって言ったじゃん?だからどうしたらちゃんと使えるかなって」
「ああ、それはね、多分ここの術式を──」
昼間の約束の通りできる限りヒナの注文に応えていく。
手を変え品を変え自分のもつ知識をヒナに流し込む。
結局、疲れてようが好きなことには飛びつき、いつも通り魔術の勉強会が始まった。