3-18 傷を克服して
「すぅ──ぅ──」
「はぁ……疲れた……」
あのあと重度の魔力欠乏症で倒れたヒナを抱えて医務室まで連れてきた。
空いていたベッドを借りて寝かさせて貰っている。
というか、私も結構やばい。
そもそも素の魔力量はヒナの方が多いのだ。
そのヒナと全力で真正面から魔術で戦ったんだ、私もただじゃ済まなかった。
魔力は一桁台まで使い込み、魔力欠乏症で今にも倒れそうな体を治癒魔術で無理やり動かして歩いてきた。
事前に紙に魔法陣を刻み、動けなくなるリスクを背負い杖を変形させ、魔力の運用効率を上げ、有利なフィールドを作り、そこまで対策を固めてここまで削られたんだ。
怒りに任せて戦ってくれなかったら負けてたかもしれない。
ほんと、恐ろしい。
今回戦って実感したがこれを受け止められる大人も友だちも居ないというのも納得のものだった。
だからこそ今回自分より強い人がいる、頼れる人が近くにいるという事を伝えられたら精神的外傷が少しでも改善するかもと思って実行したが……。
効果、あると良いな。
正直、この手段を取ることに思う所はあった、けど、あんな落ちこんで弱ってるヒナを見てる方が辛かった。
トラウマの話を聞いて間もない時にまたやらかしちゃったからもっと塞ぎ込んで人に打ち明けることも出来なくなるのが怖かった。
さすがに大人として見過ごしたくなかった。
さて、いろいろ強がって頑張ったけどいい加減限界だ。
「すいません……私もベッド借りていいですか……?」
「あぁはいはい、そこのベッド空いてるから……あ、寝る前にちょっとこれ飲んで」
「なんですかこれ……?」
「吐き気を抑える薬と魔力の回復を助けてくれる薬だよ。あっちの子も飲んでいたほうが良かったんだけどさすがに意識ない人には飲ませられないからね」
点滴とかないのか?
いや、今はさっさと飲んでぶっ倒れる前に寝よう。
「ありがとうございます……」
手渡された水と一緒に食道に流し込む。
胃が物を入れるのを拒否しようとしたがなんとか抑えてねじ込む。
「じゃあとりあえず五時くらいになったら一回起こすから」
「わかりました……」
仕切りのカーテンを閉めてもらい体をベッドに預ける。
これで良かったのか、その不安を抱えながら意識を落とす。
「そろそろ起きて」
「ん……」
「おはよう、気分は?」
「はい、もう大丈夫です」
「よかった」
寝起き特有の眠気は残ってるものの、あの今にも吐きそうな目眩はもう影も形も残ってない。想像より薬の効果はあったらしい。
「あと、もうもう一人の子も起きてるよ」
「あ……すいません、ちょっと話をしてきます」
一瞬頭が真っ白になったがすぐにベッドから降り歩き出す。
「……おはよう」
「うん、おはよう」
「……体調は?」
「もう大丈夫、そっちは?」
「……私も大丈夫」
「よかった……」
軽い会話を交わし、互いに異常がないか確認していく。
そして、一番大事な話に踏み込んでいく。
「レイチェルちゃん、ありがとうね」
「うん、少しでも楽になったなら、良かった」
「ありがとう……なんかね、嬉しかったの、いつでも頼っていいって言ってくれて」
「うん、いつでも頼っていいからね」
「ありがとう、早速、一つ相談してもいい?」
「もちろん」
「……頼っていいって言ってくれて嬉しかった、けど、それと一緒にいつかは私一人で、誰かに頼らずにこの魔力と向き合わなきゃいけないって思ったら、怖くて……」
「……それは誰でも同じだよ。誰だっていつかは自分と向き合って、乗り越えていかなきゃいけない。私だってそうだよ」
「レイチェルちゃんでも……?」
「うん、誰にだって抱えてる怖さの一つや二つあるんだよ。だからみんな頑張って、自分と向き合って、駄目だなって時には人を頼ってる」
「ありがとう……でも、怖いの。お祈りの時だって魔力が大きくなって欲しいなんて思ってないのに、勝手に大きくなっていってるし、いつか私のことなんて無視していろんな人を傷つけそうで、怖い」
「大丈夫、そうならないために私や先生に頼るんだよ。今すぐは無理かもしれない、とても大変で、難しいかもしれない。けどいつかは、その力と向き合って、自分の物にするんだよ」
「え……?この魔力を、私のものに……?」
「うん。その力は、ヒナが心配してた通り、何もせず放っておいたら誰にも手が付けられないくらい危険な物になるかもしれない。けど、それは使えるようになったらとんでもない強みになるはずだよ。それに、ヒナはその力をちゃんと使えるようになりたくてこの学校に来たんだよね」
「うん……」
「私はヒナのためだったらなんだって手伝うよ。だから、一緒に頑張ろ?」
「うん……!」
よし、良いところに着地できたはずだ。
話した感じ多分大丈夫だろう。少なくとも朝のような暗い表情じゃない。
ちゃんと振る舞えたか、ヒナのためになれたかは分からない。けど、少しでもいい方向に向かっていることを祈ろう。
「さて、そろそろ部屋に戻ろうか」
「そうだね、ご飯も食べに行かなきゃだし、マルクも戻ってきてるかも」
「そうだね。あ、先生ありがとうございました。そろそろ帰ります」
「うん、気をつけて帰ってね、次はちゃんと注意して練習するんだよ」
「わかりました。それじゃあ、失礼しました」
「し、失礼しました」
医務室の先生に挨拶をし、扉を閉める。
私達は傷を一つ乗り越え、帰路についた。