3-17 傷心を乗り越えて
「ああぁァァァァァああ!」
叫ぶと同時に炎を吐き出す。
抑えるなんて考えない、ただ燃やす、今はただただ全力で燃やす。
ふざけないで!今までどれだけ大変だったと思ってるの!?これのせいでどれだけ迷惑掛けたか!友達を傷つけたか!
加減もなにも考えず、ただ感情に任せて燃やしていく。
しかし吐き出した火の中から燃えたはずの人が出てくる。
それも無傷、制服が焦げてすらいない。
絶対当たったのに、何事もなかったかのようにそこに立っている。
「《冬の棘》」
「っ!?」
顔の横を氷の針が通り抜ける。
紛れもない攻撃だ。
「ほら、どうしたの?もう終わり?」
「っ!《火炎》」
「《凍気》」
しかし、今度の火も簡単に止められた。
「まだ手加減してるでしょ。なんでそんなことしてるの?」
「手加減!?そんなこと──」
「してるね。少なくとも、全力じゃないもん。《曇魔の涙》、《水泡膜》、《氷球壁》」
自分ごと私を氷で閉じ込めた。
しかも雨まで降らして、天井も氷で塞がれてる。
本当に手加減なし、全力だ。
「《冬の棘》」
「くっ!」
また針を飛ばしてくる。しかし、今度は避けきれずに肩を掠め、後ろの壁に勢いよく突き刺さる。
そっちがその気ならこっちだって!
「《火炎砲》!」
「《凍気砲》」
さっきより魔力を込めて、威力を上げたのにまた簡単に止められる。
なら、お望み通り全力で、もっと威力を上げてやる!
「『炎が燃え盛り』!『全てを喰らい』『燃やし灰にする』!《火炎暴爆》!」
「『全ては停滞する』『希望を失い』『私の手の中に』《霜獄の領域》」
互いに詠唱し、魔力を大量に注ぐ大技をぶつける。
互いの魔術を消しあい、削り合う真正面からのぶつかり合いだ。
力の比べ合いなら私のほうが強い!
しかし五秒、十秒と時間が経つに連れ大きくなっていくのは寒気だった。
「なっ!?」
押し負けた!?そんな訳ない!だってあんなに魔力を込めたのに!
ならもっと魔力を込めてやる!
「『炎が──っ!?」
魔術が、魔力が出ない……!?なんで!?
「ヒナ、もう魔力ないよ」
「え……?」
魔力がもうない?使い切った?そんな訳ない!だってあんなにあったのに!
そんな訳ない、そう言おうとした瞬間地面が目の前に近づいてくる。
いや、私が倒れ込んでるの?
「なん……で」
「あんなに雑に撃ったらそりゃたくさん使うよ」
「ちがう……邪魔なくらいたくさんあったのに……」
「それも込みで、私の勝ちだね」
おかしい!たった三回しか撃ってないのにそんな簡単になくなるわけない!
「まだっ、まだっ!『火種は燻り燃え上がる』!『薪を喰らい剣と成る』!『今輝くは緋色の剣』!」
詠唱してより強い魔術を組み立てる。
作るのはあの炎の剣だ。
あんなに大きな杖を持って避けられるわけない!今までと違って近づけば絶対に当てられる!
「《緋炎剣》!」
ほら作れた!やっぱり魔力がないなんて嘘だった!いける!
「はぁ!」
「《冬縛》」
「なっ!?」
「これで本当に私の勝ちだね」
足を氷で固められ前に踏み出せなくなる。これじゃ剣を当てられない。
負けた……?よりにもよって魔術の勝負で……?
「ねえヒナ、そもそもなんで戦ったか覚えてる?」
「それはレイチェルちゃんが馬鹿にしてきたから──」
「じゃあ、なんて言ったか覚えてる?」
「っ!この魔力をサボってても使えるようになるのかとか、お父さんお母さんに申し訳無くないのかとか……」
「そんな程度の力にいちいた落ちこんでみっともないとか?」
「……うん」
思い出しただけでもムカつく、のに体に力が入らない。
「じゃあ、なんで落ち込んだの?」
「え?それはレイチェルちゃんを傷つけちゃったから……」
「じゃあ、今、私は怪我してる?」
「……してない」
「そう、全力で戦って、怪我一つしてない。私はヒナより強いの。だから、心配なんてしなくていいんだよ」
「……え?」
「ヒナの昔の話は覚えてる、今まで何人も友だちを傷つけちゃったんだよね。でも、私は違う、ヒナのその力に負けないだけの強さを持ってる。だから、いつでも頼ってくれて良いんだよ?一人で抱え込まないで」
嘘だ、今まで何人も同じことを言って、結局駄目だった。
私が傷つけちゃった。
でも、レイチェルは私が全力で戦っても怪我の一つもしなかった。
私より強いと見せつけてきた。
「頼ってもいいの……?」
「もちろん、怖かったよね。今まで一人でそんな力と向き合ってきて。いつでも頼っていいんだよ。私だけじゃないマルクでも、先生でも誰でもいい。怖くなったらいつでも頼っていいんだよ」
「うん……!」
──不思議と、涙が零れ落ちた。