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3-16 焦燥

「ねえヒナ、今日の午後一緒にやりたいことがあるんだけどいい?」

「っ!な、何するの……?」

「ん〜、まだ秘密」

「えぇ……」


 その質問と答えがただただ怖い。

 なんで被害者(レイチェル)加害者(わたし)を呼び出すのかが分かんない──いや、本当は心当たりがある。何度も繰り返してきてしまったせいでなんとなく分かってしまう。


 謝罪(ごめんなさい)とお説教、昔からこういう時は決まって叱られ、ひどい時は叩かれることもあった。


 分かってる、私が悪いんだ。いつだってこの魔力(ちから)を止められてない私が悪いんだ。


 昨日だって面白そうだし、できそうだったからまた簡単にこの魔力(ちから)を使った。あんなにお父さんにもお母さんにも「先生が居ないところでは使うな」って止められてたのに。


 今は行きたくないのに行かなきゃいけない、怒られたくない、その気持ちでいっぱいだ。


 ──嫌だな。


 なんでこんな(まりょく)持って生まれんだろう。これが無ければ私だって──


「ヒナ?」

「っ!な、なに?」

「いや、顔色良くなかったから」

「あ、うん、ありがとう……」


 ああもう()()だ、また被害者(マルクとレイチェル)が心配してくる、なんで!悪いのは加害者(わたし)なのに、なんで……!


「そろそろ行くぞ」

「あ、ごめん、すぐ行く。行こ?」

「……うん」


 ──本当にわけが分からない。


















 教室の魔道具から授業が終わる合図の鐘の音が響く。

 結局あのあと何をするのか教えてはくれなかった。


 ──怖い、そうとしか言えない気持ちがずっと胸の中に溜まって気持ち悪い。

 それも時間が進むごとに大きくなるようで、怖い。


「ヒナ、ご飯行こ?」

「……うん。……ねぇ、午後、何するの?」

「まだ秘密、でも杖は持ってきてね」

「っ!いつになったら教えてくれるの……!?」

「う〜ん、言っても良いんだけどちょっと先生に怒られそうだからまだ待って」


 ──先生に怒られる。やっぱり叩かれるのかな……杖も取り上げられるのかな……。


 ……嫌。


 でも、助けてくれる人は居ない、悪いのは私だから。いつも迷惑掛けてるから。


 ……嫌。


「嫌っ!」
















「嫌っ!」


 ヒナが叫ぶのと同時に魔力が放たれ、火柱が立つ──のを事前に読み取り、冷気をぶつけて相殺する。


「あ……」

「危ないよ?大丈夫、別にヒナに悪いことするわけじゃないから」

「本当に……?」

「うん、むしろ、ヒナのためになると思う」


 今にも泣き出しそうな声の問いかけにできるだけ安心させるように答える。


 マルクはちょっと口が出そうだったけどなんとか堪えて見守ってくれた。

 朝に今日は任せてほしいって伝えておいてよかった。


 ……ていうかしまったな、本当はこんな事する予定じゃなかったんだけどな……。

 多分罪悪感とか不安が朝から溜まり続けて暴走しちゃったんだな。


 ちょっとやりたいことが怒られそうなのでできれば二人の秘密で終わらせたい。


 それに、今の落ち込んでる姿と普段の気丈に振る舞う姿に差がありすぎて見てられない。

 課外とか今はどうでもいい。今は何よりもヒナにこびりついた恐怖心と不安を引き剥がすほうが大事だ。


「じゃあちょっと先に行く所あるから先行ってて、ご飯食べたら運動場に来てね」

「……分かった」


 話を切り上げ、作戦の準備に入る。

 向かう目的地は礼拝堂、レベルを上げ少しでもステータスを底上げする。


 朝見た時spは全然溜まってなかった。けど、焼け石に水でも少しでも成功確率を上げるためにできることはする。













 少し駆け足で運動場に向かう。

 色々準備してたら遅くなってしまった。


「ごめん、待たせちゃったね」

「いや、大丈夫。それより、何するの……?」


 口を開いて一番に気にし続けてた呼び出された目的について聞いてくる。


 うん、周りに人は居ない、ここなら思いっきりやっても大丈夫だし人に見られるのもすぐ気づける。

 もう、伝えて大丈夫だろう。


「ちょっと全力で魔術を私に撃ってもらいます」

「……え?」


 まあ、訳が分からないだろうな。

 でも、ヒナは自分の魔力(ちから)に怯え、自分のせいで他人を傷つけることが精神的外傷(トラウマ)になっている。


 多分それは今までそれを受け止められる人がいなかったからだ。自分が魔術を使うことが人を不幸にするという考えが心の底に根付いている。


 鬼ごっこの時とかは多分何時でも止めに入ってくれる先生がいたから我慢できたんだろうが一度こうやって精神的外傷(トラウマ)が表に出ると我慢できなくなる、何をするにしてもそれがチラついて不安で仕方なくなる。


 だからその精神的外傷(トラウマ)を、魔力(ちから)を受け止められる人が、さらに言うなら友達がいることを事実として伝えることできっと緩和できるはずだ。


 そのために、魔力(ちから)に対する一種の信頼(ふあん)をへし折る。


「何言ってるの……!?昨日のこと忘れたの……!?そんなことしたらまた……!」

「ヒナこそ昼のこと忘れたの?調子に乗らないで、ヒナが全力で来ても負けないから」


 挑発を交えながら杖を展開し、準備を整える。


「な……!?そんな使い方したら避けれないんじゃ……」

「避ける必要なんてないよ、全部消して止める。それに当たったところで私は自分で治せるんだよ?」

「そうかもしれないけど……」

「ほら、早く」

「いやだから……」

「そもそも何しにこの学校に来たんだっけ?その魔力の使い方を覚えるためでしょ?こんなところで立ち止まっていいの?」

「っ!それは……」


 口を動かし、挑発し続ける。

 なんでもいい、最初の一歩を踏み出すきっかけは何でも良い、ついカッとなってやっちゃったでも信頼して撃ったでも、最初の一発を撃たせることが重要なのだ。


「せっかく学校に通わせてくれたのにお父さんお母さんに申し訳無くないの?」

「っ……!」

「それともサボってても使えるようになるような力なの?だったらそんなことにいちいち落ちこんでみっともない」

「このっ……!さっきからぁ!いい加減にしてっ!」


 ヒナの我慢の限界を超え叫びとともに炎が放たれる。



 ヒナは怒りをぶつけ、私はヒナの精神的外傷(トラウマ)を治すため、全力をぶつけ合う喧嘩が始まった。

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