3-14 亀裂
「はぁ!?何やってるんだ!?」
「ひっ」
「今まで見たこともない魔術を見様見真似で使おうとした!?普通に考えて出来るわけ無いだろ!それに初めて使う魔術を室内で使った!?魔術の実験なんてほぼ確実に失敗するんだ!外でやるのは常識だろ!?」
「マルク……落ち着いて……」
「案の定失敗した!レイチェルが止めてくれなかったら今頃──」
「マルクっ……!」
「っ!」
「言い過ぎ……それは後で私が注意するから……」
「……ごめん」
「それは……言う相手が違う……」
「あ……」
マルクの視線が私からヒナに向く。
多分ちゃんと言わなきゃいけないことは理解してる。
「ヒナ、ごめん。言い過ぎた」
「うん……」
今にも泣き出しそうな声で答える。
怒鳴りつけられて怖かったか、精神的外傷に触れたか、それは分からないがどっちみちいい状態とは言えない。
「ヒナは……あの時ちゃんとすぐ止めてくれたもんね……止めてくれなかったら……多分、この程度じゃ済まなかった。次から気をつけたら良い……。マルクも……心配してくれたんだよね……わかってる、から、今日はもうやめにしよう」
「ああ……」
「うん……」
二人を傷つけないよう、戒め、注意し、慰めていく。
これできっと最低限は伝えられただろう。
「あと、もう先に寝てていいから……ちょっとトイレ行ってくる」
もたれかかってた椅子から立ち上がり、ふらつく足を動かす。
二人の前では強がってたが、もう限界だ。胃が……。
さすがに床に戻すわけには行かないので意地でもトイレまで、最低でも洗面所まで口を押さえながら歩く。
頼りない足を動かし、壁伝いに歩く。今にも倒れそうな体を意地と気合で動かす。
幸い、なんとかトイレまで持った。
やばい、もう限界……。
「うっ……」
「はぁ……」
あ〜吐いた、もう吐きすぎて一周回ってスッキリした。
もう何も胃の中には残ってないな……。
多分今回も魔力欠乏症だと思うけど前回より酷いな……。
多分、前みたいに準備も何もなしに一気に魔力を消費したせいだな……。
杖も詠唱もなし、前みたいに計画通りに進んだわけでもなければ雑な魔法陣で無理やり出力を上げたんだ。絶対にかかる負荷が前回より跳ね上がってるだろう。
とりあえず、体調は変わらないが一旦落ち着いたのでここまでの行動を振り返る。
……あれでよかっただろうか。年長者として正しい振る舞いをできただろうか。
もとからこんなこと向いてないと分かっていた。その上で、強がりながら捻り出した言葉だ。ちゃんと伝わったか分からない。
今後の二人の関係に溝ができてたらどうしよ……。
これから何年も一緒に生活するんだ。それが最初の一ヶ月で人間関係ぐちゃぐちゃとか気まずいってレベルじゃない。
今後の生活のためにも仲直りしてもらわないと色々キツイ。
割と最低で保身的な事を考えながら立ち上がる。
とりあえず、もう吐けるものもないので回転する視界を堪えながらまた壁伝いに部屋に戻る。
「……レイチェル」
「マルク……寝てていいって言ったのに」
「……今回、悪いのは俺だ、レイチェルを置いては寝れない。……本当に、ごめん」
「いいよ、ちゃんと分かってるなら。あと、明日、落ち着いたらもう一回謝ったほうがいいよ」
「ああ、分かってる」
とりあえず、今にも倒れそうなのでまた椅子にもたれこみながら座る。
「とりあえず、はい」
「ありがと……」
マルクから手渡されたコップ一杯の水を一気に飲み干す。
吐き気は残っているが口の中の酸っぱい味と匂いがいくらかマシになった気がする。
「どうする?医務室行くか?」
「いや、いい。今日は寝るよ。明日起きてまだ良くなってなかったら行く」
「そうか……」
本当はもう歩く体力も気力も無いだけなんだけどね。
とりあえず、もう動きたくない。
「寝ようか……」
「ああ……」
椅子から立ち上がり、のそのそとベッドに向かい、倒れ込むようにベッドに身を任せる。
証明はマルクが消してくれたのでそのまま意識をベッドに落としていく。
「おやすみ」
「……おやすみ」
……疲れた。
すいません、ちょっと短めです……