3-12 試作品
「そろそろ食堂にいかないか?」
「ん?もうそんな時間?」
時計を確認すると午後六時四十分、七時に食べ始めようと思ったらそろそろ移動したほうが良い時間だ。
「そうだね、そろそろ行こう。ヒナ〜、ご飯行くよ〜」
「は〜い!」
呼びかけると洗面所の方から返事が返ってくる。
私も軽く身だしなみを整えるため、練習がてら作った金属製の櫛を髪に通す。
魔術の構築がちゃんとできてるか確認するため試しに何かつくってみようと思い、前々から欲しいと思っていた櫛を試しに作ってみたのだ。
ただ、氷で作るわけにはいかなかったので地属性の魔術で出した金属を使って作った。
先天属性でもないから細かいものを作るのは自信なかったけど、これが思いの外うまくいって結構使い勝手の良い物ができた。
自習の効果を実感できて嬉しい限りだ。
「レイチェルちゃ〜ん、行くよ〜?」
「ごめん、すぐ行く」
成果を確かめるのに夢中になって待たせてしまった。
櫛を机に置き、少し早足で廊下に向かう。
私が部屋から出ると鍵を持ったマルクが扉に鍵をかける。
ガチャリと音を立てた扉のドアノブを数回動かし、鍵がかかったことを確認する。
「よし、閉まった。行こう」
そういうとマルクは鍵をポケットにしまい、歩き出す。
「何食べようかな〜」
「いつも結局お肉じゃん」
「うん!でもお肉はお肉でも色々あるんだよ?唐揚げとかハンバーグとかステーキとか!何にしようかな〜」
よく太らないな……
この一ヶ月ほどずっと一緒にいるがヒナからは外見的な変化は感じられない。
まあ一ヶ月で目に見えてわかるほど変化するのは異常も良いところだが普段の食生活を見てると少し心配になる。
「てかレイチェルちゃんも珍しいものばっかり食べてるじゃん、なんだっけ、え〜っと……」
「和食だろ?確かにあまり和食が好きって言ってる人は見かけないな」
「え、そうなの?」
「ああ、なんならどこが発祥かも分からないくらいには知られてないな」
「え、知らないんだ」
「ん?レイチェルは知ってるのか?」
「え?に──いや、私も知らない」
危ない、危うく日本と答えるところだった。
この世界の地図は今まで何回か見たことがある。
しかし、その中に日本という国は存在してなかった。
といっても、まだこの大地が球状か平面とか、海の向こうがどうなってるのかとか、まだそんな事を話していてこの世界全てが地図に記されたわけじゃないから探せばある可能性は捨てきれないが。
まあ前世では星が球体とか当たり前の話だったけどこの世界がどうかは私も知らないので一概に大地は球場で繋がってるとかは言えないけど。
とりあえず、ボロ出さないようにしよう。
「あ、そういえば明日はどうする?また一緒に行く?」
聞いておいたほうがいい気がしたから話題を変えるのも兼ねて投げかける。
「俺としては別々でもいいかな。多分あと二日間くらいは初めての人が多いとかで魔術基礎も剣術もほとんど内容変わらない気がするんだよな。だから違うところに行きたいんだけどそうすると3人全員では無理だろ?」
「私も!今日全然面白くなかったから違うとこが良い!」
「じゃあ明日は別々でも回ろう」
「わかった」
「わかった!」
明日の予定を決め、全員の了承が得られたところで食堂に着く。
食堂に入ったらとりあえずミシェル──制服じゃない人間を片っ端から確認していく。
制服の人間が多く、目立つため、見つけるのにそう時間はかからなかった。
「あ、皆さ〜ん、こっちです」
あちらも気づいたようで呼びかけてくる。
なんかいつ来てもミシェルのほうが早い気がする。暇人か?
「先生こんばんわ。料理取ってきます」
「はい、席をとって待ってます」
とりあえず一言伝えて料理を取りに行く。
ヒナの発言もあってか何を食べるか事前にある程度考えてたので5分ほどで全員が集まった。
ミシェルがとっていた席に着き、食事を摂りはじめる。
夕食を食べ終え部屋につく。
ヒナは結局唐揚げだったな。ほんと心配になる食生活してるなぁ。
「シャワー一番でもいい?」
「別にいいよ?マルクは?」
「別にいいぞ」
「ありがと!」
部屋につくなりすぐに着替えを持って風呂場に走っていった。もしかしたら疲れたから早く寝たいのかもしれない。
「次どっちが入る?」
「俺は後でいい」
「わかった、先に入らせてもらうね」
「ああ」
「ありがとう」
ヒナはいつも早風呂なので順番を先に決めておく。
先に入らせてもらえることになったので着替えを準備しておく。ついでに試作の櫛を持っていく。
あ、そういえば同じように手鏡とか作れないかな。
洗面所には鏡ないからちょっと今の姿気になるんだよな。
思い立ったが吉日、杖と魔法陣を刻んだ紙を取り出し準備する。
「なにするんだ?」
「ちょっと鏡作りたいんだよね」
「あ〜、確かに無いもんな。手伝おうか?」
「ありがとう。こんな形の鏡にしたいんだけど……」
「じゃあ容器は俺が作る。レイチェルが創った鏡をはめ込もう」
「わかった」
紙に図を描きながらイメージを共有する。
結構複雑な作業になりそうだったので手伝ってくれるのは助かる。
マルクはもう作業を始めてるので私も紙を置き、杖に魔力を流し、作り始める。
「《金属加工》」
紙は薄く発光し、魔力が消費されていく。
前世の知識をもとにまずガラスを作り、銀を均等に吹きかけ、銅で薄くコーティングする。
こんなのうろ覚えで分量とか知らないので見て調整しながら作っていく。
結構難しいな……てか思ったより金属の生成に使う魔力が多い……。
「ふぅ……」
集中!
まだ銀は出して良いはず……よし、しっかり反射してるな。あとはこの反射の邪魔にならないように薄くコーティング……
「……よし」
魔力は結構使ったが設計図通りの楕円形の鏡ができた。
初めてにしてはかなり綺麗なんじゃないか?
「こっちもできた。はめ込もう」
マルクの手には蝶番のついた開け閉めできるように作られた銀色のケースがあった。
可愛らしい蝶の意匠は設計図には無いのでマルクのセンスだろう。いいセンスしてるな。
マルクに完成品を渡し、はめ込んでもらう。
マルクの方もサイズはバッチリだったようでピッタリ嵌った。
「完成、どうだ?」
「いいねこれ、使いやすい」
手のひらサイズで片手で持て、開け閉めしやすい。
「あがったよ〜!」
ヒナがシャワーから戻ってきた。ちょうどいい。
「じゃあちょっとシャワー入ってくる」
「ああ」
試作品の使用感を確かめるのは一旦置いておいて、入れ替わりでシャワーに入る。