3-8 ちょっと高度なチャンバラ
「《閃光》!」
「《空間把握》」
開始と同時に互いに魔術を発動する。
相手は目を眩ませる光を、こちらは第六の感覚器を展開する。
しかしこれはいろいろと不味い選択だった。
「っ!」
「はぁっ!」
突然の閃光に驚いて一歩下がってしまった。
そして頭に針を刺すような痛みが走る。
それは自分で展開した魔術によるものだった。
やぱい、流れ込む情報の量が多すぎて処理しきれない、今までこんなことなかったのに……!
自分の策に溺れ、相手の策にはまった結果、一歩どころか一合出遅れる。
「くっ!」
「なっ!?」
かろうじて《空間把握》から拾えた情報でなんとか袈裟斬りを躱す。
しかしすぐに二回目が飛んでくる。
「《閃光》!」
くそっ!軽いのをいいことに振り回しやがって!
しかもきっちりもう一回目眩ましを挟んできた。これがあるせいで目視で避けれない。
苦し紛れに適当に振って威嚇する。
存外効いて距離をとってくれた。本当に助かる。
なんで今回急に《空間把握》がキャパオーバーした!?今までと何も変わらない展開の仕方のはずだなのに……。
魔術の条件は変わらないはず……だとしたら変わったのは周りの方……?
──なるほど、これが原因か!
思いついた原因の対策として《空間把握》の展開範囲を狭める。
もちろんそれに伴い得られる情報は減る。
そう、減るのだ。もちろんそれ狙いで狭めている。
私と相手、審判がギリギリ入るかというくらいまで削減していく。
結果、処理しきれず溢れていた情報を減らし、余裕を持って処理できる量まで情報を減らせた。
よし、ここまで来たら普段と何ら変わらない《空間把握》だ。
「くっ!《閃光》!」
その手はわかっていたので最初から目を瞑って対応する。
今度は大振りな横薙ぎだ。
その一閃を余裕を持って一歩引いて避ける。そして思いっきり振り切ったその隙に玩具を叩き込む。
私の玩具だけがバシンっと音を鳴らし、審判が決着の宣言をする。
「し、勝負あり!」
「ありがとうございました」
「あ、ありがとう、ございました」
あ、危な……。
辛うじて勝てたからいいものの隙だらけすぎる……。
ていうか人が多いところで使うとこんなことになるのか、気をつけないとな……。
というか今まで結構広めに展開したことあるのになんで今回だけキャパオーバーしたんだ?
周りより早めに終わったので周りを見ながら考える。
ここで一つのことに気づく。
これ多分今たくさんの試合が同時に行われてるのをフェイントとかそれぞれの魔術まで全部読み取ったからだな。
今までこんな状況で使ったことなかったから気づかなかった。
今後は使う状況も考えなきゃな……。
「終わったところから次の試合を始めてください」
考えに耽ってるうちに次の指示が出される。
「じゃあ僕が審判やるよ」
さっきの対戦相手が審判役に名乗り出る。
「じゃあ、お願いします」
「お願いします」
数歩分間隔をとり、相手と向き合う。
「始めっ!」
「はぁっ!」
開始の合図と同時に踏み込んでくる。
まずい、明らかにさっきと動きが違う。確実に剣の心得が少なからずある動きだ。
くそっ!一回距離取らないと危ない!
「《暴風》!」
「っ!」
後ろに下がろうと浮かせたタイミングで風をぶつけられ姿勢を崩された。
まずい!もう相手は玩具を振りかぶってる!
避け──るのは無理だ!カウンター狙うしかない!
限界まで体を捻ってギリギリまで体に当たるのを遅らせる。
そして《空間把握》を最大限活用して相手の体に一番当てやすい場所を探して全力で振り抜く。
「はぁぁぁっ!」
「はぁっ!」
時間差で音が響く。自分でもどっちが先に当てたのか分からない。
地面に手をつきながら結果を知りたい一心で審判を見る。
「し、勝負あり!か、勝ったのは……」
どっちだ!?
「……あなたです」
時間を掛けて考えた末審判は私に向かって宣言する。
勝ったのは私と、審判は判断した。
「ありがとう……ございました」
「ありがとうございました」
ガッツポーズを決めて喜びたいのを堪え、向かい合って試合終了の挨拶をする。
なんとか総当たりの模擬戦は二勝無敗で終わった。




