3-3 緋炎剣
「何やってるんだ?」
ヒナの練習?に付き合ってるとマルクから声をかけられた。
もう自主練はいいのだろうか。
「マルク、もう練習はいいの?」
「ああ。もう魔力も少なくなってきたし、刻印魔法陣がなくなった」
書き溜めしてた魔法陣を使い切ったらしい。
ついでに『ステータス』を使ってマルクの魔力を確認すると最大魔力の五分の一を切っている。安全を考えて切り上げたんだろう。
「それで、結局何してたんだ?」
「ヒナの練習に付き合ってた。なんか魔術の操作を上手くなりたいんだって」
「ああ、それであんなに火を動かしてたのか」
「うん、変えたりして練習してたところだね」
「へえ、どんな形を作ろうとしてたんだ?」
「剣の形にしようとしてた」
「……なんでこの流れで急に武器作ってるんだ?なんか図形とか作って練習するんじゃなかったのか?」
「いやなんか手本で形だけの剣作ったら剣作りたいって言い出しちゃって。それで、ほら」
少し離れたところにいるヒナに指を指す。
さっきからずっと炎を出しては消えてを繰り返してる。
十字に近い形に変えてるけどまだ剣とは言い難い上維持できず、ところどころ形が崩れ、安定しない。
「あー!もう!」
あ、諦めた。
何度やっても上手く行かないから嫌気が差したんだろう。
「無理!レイチェルちゃんどうしたらいい!?」
苛立ちながらも質問を飛ばしてきた。
一度手本を見せてるからか解決策を期待されているみたいだ。
正直火属性は苦手だから私もこれといって解決策があるわけじゃない。
どうしよ……
あ、そうだ。収束と膨張ができるなら手はあるかもしれ
ない。
さっきの練習風景をもとに策を導き出す。
「ヒナ、形を変えるんじゃなくて火を出し続けるのは出来る?」
「え?うん」
そう言うとヒナは手のひらから火を出す。その火は10秒経っても20秒経っても消えない。
「うん、これなら……じゃあそのまま使う魔力は変えずにもっと小さくできる?」
「わかった」
継続的に出し続けられていた炎は小さく、手のひらサイズまで圧縮される。
これなら……
「じゃあそのまま薄い板みたいに伸ばせる?」
「や、やってみる」
魔力が動き炎が蠢く。
少しずつ、ほんの少しずつ形を変えていく。
形を変えるのは不得意だと思う。だから最低限の形、装飾やシルエットなんで考えず必要最低限の機能を残した形を提案した。
もうこれで駄目なら剣は諦めるしかない。
緊張感で満ちた空気の中、汗をかくほど集中して魔力を操作していく。
しかし、失敗してしまった。
「む、難しい……」
う〜ん、失敗こそしたものの悪くなかったように見える。
何がダメだったのか、なぜ失敗したのかに思考の焦点を当てる。
魔力の操作が甘かった?いやでも結構上手くいってた。
だとすると他の要因……イメージが固められなかった?
魔術は作り出す事象に対するイメージをもとに式を描き、魔力を動かす。たからイメージの段階で鮮明に想像できてなければ失敗する。
失敗の要因はわかった。あとできる事といえば……詠唱くらいか?
なら即席だが詠唱を作らなきゃ……あと名前もつけたほうが補助になるか?
だとするなら……
「ヒナ、一回試してみるからよく見てて」
「う、うん」
不得意だが一度やったほうがいいだろう。いくら不格好だろうが一度現物をみたほうがいい。百聞は一見にしかずと言うしな。
決意とイメージを固め、即席の詠唱を呟く。
「『火種は燻り燃え上がる』『薪を喰らい剣と成る』」
詠唱に伴い魔法陣を構築する。
私の魔力を薪に、その炎は燃え上がる。
「『今輝くは緋色の剣』《緋炎剣》!」
名前を叫ぶと同時にその剣は完成する。
いや、不格好すぎて剣と言うには似つかわしくないシルエットだ。
これじゃ遠目で見ればただの火の棒だろう。
しかし、イメージを固める手本には十分なはずだ。
「どう?できそう?」
「うん、やってみる」
不慣れな火属性魔術使って一肌脱いだんだ。成功させてほしい。
覚悟と準備を終え、ヒナの口から詠唱が唱えられる。
「『火種は燻り燃え上がる』『薪を喰らい剣と成る』『今輝くは緋色の剣』!《緋炎剣》!」
張り詰めた空気の中、少しずつ炎は剣に形作られる。時が止まってるんじゃないかと思うほどの緊張の中炎は蠢く。
「っ!」
汗の滴り落ちる音がした。
ただ、その音は炎が燃え盛る音でかき消される。
ヒナの手に緋色の剣が握られていた。